☆☆☆

「じゃぁ、また明日ね」

「あぁ」

手を振り、左の道へと入っていく。

今日は、ほんの少しだけ幽斗君のことをしって、ほんの少しだけ近づけた気がする。

ただそれだけなのに、嬉しくて心が弾む。

それは表に出て、家までの短い距離鼻歌とスキップをしながら進んでいった。

2度ほど振り返ると、幽斗君が私を見送ってくれていて、それがまた嬉しくて大きく手を振った。

だから……。

だから、気づかなかった。

幽斗君が立ち止まり見送っていたのは、私じゃなかったことに。

幽斗君の目に映っていたのは、私の背後にいる真っ黒な猫の霊だった、ということに――。