「いい子だな」

咲弥の背中を見送ってから、幽斗君が呟くように言った。

「え?」

私は、幽斗君の顔を見る。

夕焼け空に染まって、長い前髪がキラキラと紅く光る。

その向こうにある顔は、どこか寂しそうな表情をしていた。

「友達って、俺よくわからないから」

再び歩き出しながら、言う。

「なんで? 入学してきてから、雪斗君も一杯話しかけてくれてたじゃない」

「あぁ……。でも、どう受け答えをしていいか、わからないんだ」

私は、幽斗君が無言のまま机を見つめていたことを思い出す。

返事をしなかったのは、暗いとか嫌だったとか、そういうんじゃなかったんだ。

「普通でいいと思うよ?」

私がそう言うと、幽斗君は少し驚いたように私を見た。

「私なんて、幽斗君にはすごく助けられてる。絶対、離れられない存在なんだから」

「夢花……」

幽斗君は少しだけ微笑み、私の体を抱きしめてきた。

「ちょっ……!」

道路のど真ん中でなにするのよ!

そう言って振り払おうとしたけれど、私を抱きしめる手が泣いている気がして、私は言葉を失った。