お寺の、お線香の香り――。

「な……なに、するのよっ!!」

思わず幽斗君を両手で突き飛ばし、真っ赤になった顔を両手で覆い隠す。

すると、幽斗君はクスクスと笑い、「それだけ元気があれば充分だ」と言って、私の頭をなでた。

なに?

なんなのこいつ!?

昨日あったばかりなのに、私に対してばっかり生意気!

「夢……」

「なによっ!」

顔を覆っていた手をどけ、ムスッとした顔を出す私。

「なお……ってる」

「へ?」

「治ってるよ、夢花!!」

目を丸くしてそう言い、また鏡を取りだす。

あ――!!

本当だ。

鏡に映ったのはさっきのシワシワおばあちゃんじゃなく、15歳の女子高生だった。

腰も、足も全然痛くない。

体も軽い。

なんで……?

どうなってんの!?

「ま、せいぜい頑張れよ、夢花ちゃん」

幽斗君はまたクスクスおかしそうに笑い、私たちを置いて先に行く。

「ちょっと、なにしたのよ!」

私に、なにをしたの?

「夢花、昨日もそうだったよね」

「うん……。あいつに抱きしめられた瞬間、元に戻った」

桜の花びらの上を歩きながら、私は頷く。

「『運命の人に抱きしめられたら治る』なんて体質だったりしてね?」