その日の夜、私は夢を見ていた。

にゃぁお。

どこからか、猫の声がする夢。

にゃぁお。

心なしか、昼間見たあの黒猫の声によく似ている。

早く……。

早くおいで。

その声に、私は驚いて振り返る。

誰?

誰かそこにいるの!?

にゃぁお……。

にゃぁお……。

繰り返す、猫の声。

ダメ、やめて。

私は強く耳を塞ぐ。

それでも、脳へと響いてくる鳴き声。

まるで、私の体の中で鳴いているようだ。

夢花。

夢花、早く、おいで――。

真っ黒な手が、私に向かって伸びてくる。

嫌だ!

その手が私の体にからみついた瞬間、私はハッと目を覚ました。

体中汗でビッショリだ。

時計を見ると、朝の6時。

あと30分もすれば家族も起きだす時間だ。
私は、夢の中の手を思い出し、自分の体を抱きしめた。

まだ、感触が残っている気がする。

「お風呂……」

シャワーだけでも浴びたい。

そう思い、起き上がる。

案の定、体はだるく、そう簡単には立ち上がれない。

「もう、シャワーだけでいいから浴びさせてよ」

と、自分の体に文句をつける。

でも、この体のまま浴室に行くのは危険だ。

せめて、誰か起こして外で様子を見ててもらわないといけない。

全く。

面倒な体!

私は自分の体にムチをうちかがら、シャワー室へと向かった――。