ピリリリリ、ピリリリリ
 その気まずい空気を打ち消すように、僕のポケットの中のスマホが音を立てる。

「ちょっと、ごめん」

 僕はヒナノから顔をそらし、電話に出た。

『涼磨?』

 その優しい声に知らず知らずのうちに張り詰めていた気持ちがほぐれる。
 彼女からだった。

『今、おばあさんの家にいるんだっけ?』
「うん、そうだよ」
『いつ帰ってくる?』
「んー、広い家だからねー、片付けにどれくらいかかることやら……」
『ゴールデンウィークの最終日は?』
「うん、それはさすがに大丈夫だよ」
『じゃあさ、』
 プツッ……プーッ、プーッ、プーッ

「……あれ?」

 急に電話が切れた。どうしたのだろう。かけ直そうとするが、繋がらない。
 嫌な汗が頬を伝う。いくら田舎でも電波が来てないことはない。現にさっきまで繋がっていたのだから。じゃあ、なぜ?

「今の誰?」

 今までに聞いたことがないような冷たい声が背後から聞こえる。

「今の、誰?」

 刺すような問いかけに振り返らずに答える。

「……彼女」
「彼女?」
「そう……彼女も待ってるから、早く戻らなきゃ……」

 その瞬間、何かが僕を押し倒した。
 床に押し付けられ、動けない。恐る恐る目を開けると、再び成長した姿になったヒナノだった。その表情は、悲しみ、怒り、憎しみ、様々なものが入り乱れて歪んでいた。