車を降りると、ザァッと青々と茂った草木をなびかす暖かな風が肌を撫でた。
 なんだか懐かしいにおいがする。

「いい天気でよかったわ」

 母が言う。都内の自宅を出た時には、ゴールデンウィークの初日にふさわしくなく、どんよりと曇っていた。しかし、ここ、母方の実家があるこの田舎町に近づくにつれ、雲は晴れ、5月らしい陽気になっていった。

涼磨(りょうま)、何してんのよ。これ持って」

 そう言って、姉の有里(ゆり)が荷物を押し付けてくる。

「いらっしゃい」

 車の音を聞きつけたのか、祖母が家から出てきた。

「疲れたでしょう。一先ず休みなさいな」

 祖母に促され、家に足を踏み入れる。
 何年ぶりだろう……。祖父が亡くなったのは、僕が中学2年の時。その葬式の時以来だ。
 はっきり言って、よくある普通の田舎だ。遊び場所なんて自然の中しかない。中学生になってからは、部活が忙しいとか、友だちと約束があるとか言ってここに来なくなっていた。
今春、僕は無事大学1年生になった。背丈も中学の時からかなり伸びたせいか、いろんなものが記憶よりも小さく見える。

「お母さん、私やるから座ってて」

 母が台所でお茶を入れようとしていた祖母に声をかける。祖父とこの家が好きだった祖母は祖父が亡くなった後も、頑なにここで暮らしたがった。
 しかし、もう歳も歳だ。母が、心配だからそろそろ一緒に住んでくれないかと祖母を説得したらしい。祖母も思うところがあったらしく、父の了承も取れていることを聞くと、とうとう首を縦に振った。今日は、その引っ越しのための片付けに来たのだ。