竜二はマンションに着替えに戻った
竜二は玄関をあける
「雫ちゃんいる?」
「はーい」
浴室から声がした
「シャワーしたい、暑い」
「どうぞー」
「一緒に入る?」
「やだー、竜二さんたら」
雫は浴室から出ていった
竜二が出てくると新しいスーツが置かれていた
(さすが雫ちゃん(笑))
「お昼は家で食べますか?」
「うん、食べる。十二時半に出る」
「用意しますね」
竜二はダイニングテーブルに座った
「無事終わりましたか?」
「まあ、なんとか……掃除の人がいなくて床掃除してきた」
「えー、それはお疲れ様です」
竜二は舟木店の出来事を雫に話した
「どうぞ」
「素麺か、いいな、雫ちゃんは?」
「食べますよ。でももう少ししてからにします。少し早いので」
「旨いもの食べたら少し落ち着いた」
「よかったです。そこだけが竜二さんの店舗じゃないですもんね。切り替え大事です」
「雫ちゃんが居てくれてよかった」
「(笑)暇ですから~」
玄関で雫は見送る
「じゃあ行ってくる」
竜二は自分の頬を指でトントンと指す
「あっ、チュッ、行ってらっしゃい」
お返しのキスも雫は唇にもらい、竜二を見送る
(不意打ち……カッコいい)
本社ビルに帰る
「お疲れ様です」
真木が声をかけてくれる
「ああ、疲れたモップがけしてきたよ」
「えっ、そんな状態に?」
「(笑)経理に行ってくる」
本社一階にある経理課へ向かう
「経理部長、いいですか?」
「ああ、お疲れ」
二人は個室に入る
「聞いたよ、大変だったな」
「すみません勝手に、部長の許可も取らずに」
「出張だったから構わないよ」
「事後報告で申し訳ないですがレジの修理とエアコン掃除と室外機が壊れてるのでそれの請求が回ってきます」
「今日のレシートあるんだろ?」
「あっ、これは自分でみんなに飲み物を渡したので大丈夫です」
「いいよ、出せよ」
「すみません」
「すぐ修理するように書類回すから」
「ありがとうございます」
経理から同じフロアの総務課へ顔をだす
「課長、この書類もらっていきます」
「あっ、悪い」
「いえ」
自分の部屋に戻った
「山口さんお呼びしましょうか?」
「ああ、すまない」
暫くして山口が部屋にやってきた
「悪いな」
「いえ、お忙しいのにこちらもすみません。一応目を通していただきたくて」
「広告か?」
「はい」
真木が麦茶を運んでくる
「これ、見てどう思う?」
「あら、広告ですか?」
「女性の意見は重要だからな」
「女子社員も行きたいっていってましたよ。浴衣着ていく?とか」
「浴衣かー、女性の浴衣もいいな」
「なかなか着る機会ないですからね」
「広告はこれでいいんじゃないか?女性スタッフは浴衣着てもらうか?」
「いいですね、レンタルとか手配いたしましょうか?」
「そんなのもできるのか?」
「お任せください(笑)」
「社員証見せたら飲み物一本サービスするか」
「じゃあ社内メールは総務の方でしますね」
「お願いします。じゃあ広告出してきます」
「行ってこい」
「私も浴衣着て行きましょう(笑)部長は来られますか?」
「彼女の誕生日なんだよね」
「あら、それで夏休みを?」
「うん、二人で行くことにした。実は彼女の意見を参考にしたんだよ」
「まあ、彼女を連れてくるとなると女子社員がショックを受けるかもしれませんが、案を出したのなら彼女さんも行きたいでしょうね」
「俺の迷惑になるならやめるっていうんだけどな」
「健気ですね」
「だろ?」
「浴衣のお店紹介しましょうか?」
「そうだな、どこにも連れていってないからな」
「そうなんですね」
「若い子の好みがわからない(笑)」
「おいくつですか?」
「二十歳」
「学生さんですか?」
「うん、あまり高い買い物もしない子だから」
「でも贈る側ははっきり言ってくれたほうがプレゼントはしやすいですよね」
「うーん、贅沢言わないんだよな、今までなら高い料理屋連れていったら喜んでたのに」
「でも今までと違う方だから魅力的で惹かれたのでは?」
「そうなんだよな、二十歳の子に翻弄されてる(笑)」
暫く雫の自慢話をしてしまう竜二だった
土曜日の朝、竜二のマンション
「じゃあ、大学に行ってきますよ。ご飯してますからゆっくり今日は休んでくださいね」
寝室に声をかけて雫はオープンキャンパスの手伝いに出掛けた
夜十二時を回っても雫が帰ってこない
竜二はそわそわして待っていた
(雫ちゃん初日にお酒呑んで寝てるからな、どっかで酔って寝てないといいけど)
ガチャンと玄関の音がした
竜二はソファーで寝たふりをする
雫は静かにリビングに入ってくる
「あれ?竜二さん、寝室で寝てください」
竜二は雫に抱きついた
「もう、また寝たふりですかー(笑)」
「どこかで寝てるんじゃないかって思って」
「大丈夫ですよ、大学の友達と久しぶりに呑んだので話いっぱいしてて遅くなりました」
「雫ちゃんバイトいつも入ってるから遊ぶ暇ないよね」
「バイト好きなんで(笑)ごめんなさい遅くなって、もう寝て下さいね」
「えっ、一緒に寝るよ」
「お酒呑んでるんで私はソファーで寝ますよ」
「それなら俺だって呑んで帰ったら雫ちゃんと寝れないじゃん」
竜二は拗ねた
「わかりました……シャワーして着替えます」
「うん!」
雫が寝室に行くと竜二はスースーと寝ていた
(眠たかったんだ(笑))
そっと布団に入る
朝、雫はトイレに起きてご飯のセットをしにダイニングに行く
(あれ?ご飯が炊けてる)
「雫ちゃんおはよー」
「おはようございます。ご飯が炊けてます」
「うん、タイマーしてみた(笑)」
「食べますか?」
「うん、荷物くる前に雫ちゃんの荷物全部運ぼうか?」
「はい、お願いします。あの……」
「ん?」
「本当にアパート引き払っていいんですか?」
「うん、当たり前だよ」
「あまりにも贅沢しすぎて……」
「荷物運んだらこれからのこと話そうか?」
「はい」
二人は雫のアパートに来ていた
「あと大きい物は布団と冷蔵庫と折り畳みテーブルと三段BOXだね」
「はい、あと食器です。自転車だと割れちゃいそうで」
「じゃあ、これで全部だね」
「はい、すみません」
雫のアパートを二度往復して荷物を運ぶ
竜二のマンションに荷物を運ぶ
「お布団干していいですか?」
「うん、カバーも洗っちゃいな」
ピンポーン
「どうぞ、お願いします」
家具が運ばれてきた
あっという間に家具が入れ替えられる
二人は昼食を食べながらこれからのことについて話す
「雫ちゃんは将来なりたいものあるの?」
「私はですね、とりあえず料理好きなんで今の大学で栄養士の資格はとれてるんですよ。でもその上の管理栄養士をとりたいと思ってます。三月に国家試験があるんですけど、県外でしかとれないので勉強してます」
「そうか、それで就職活動してないんだね、家からの仕送りは?」
「振り込んでくれてます。家賃と公共料金を払って、あとは生活費はバイト代からですね」
「ここに住むことになったら家賃も公共料金もいらないけど……」
「えっと、それは駄目です。私も払います」
「そういうと思った。じゃあ今の家賃分だけもらうよ。公共料金はいいから、あとバイト代は雫ちゃんが使っていいよ。服買ったり、試験受けに行く旅費を貯めてもいいしね。その代わり俺からお願いが一つある」
「はい?」
「バイトを週一日休みにしてもらいたい。何曜日でもいいから……本当はさ、毎日ご飯を一緒に食べたいんだけど、バイト好きだって言ってくれたし雫ちゃんのことを好きでいてくれるお客様もいるからバイトを辞めてとは言わない。でも週一回雫ちゃんとゆっくり夕食が食べたい」
「なんで、私みたいな学生にそこまでしてくれるんですか?」
「好きになったから……たまたま今、雫ちゃんが学生ってだけだろ?」
「それは……」
「俺ね、はっきり言って高校、大学も結構遊んでた。友達とも、女とも、彼女も何人かいたしね。その中でもはっきりお金目当ての人もいた。そういう人はすぐ縁を切ってきたつもりだけど雫ちゃんに会って、俺の財産を預けてもいいって初めて思ったんだよ」
「財産って、重くないですか?」
「重いよ。でも雫ちゃんは素直でよく人のこと気づいて仕事はいつも笑顔で雫ちゃんのレジの列に並ぶのも二、三日でも楽しみになってた。
この子なら一緒になりたいって初めて思ったんだよ。もう二十八歳だよ俺……雫ちゃんが大学卒業したら結婚考えてる。だから同棲したかった」
「私、荷物運んでて、もし別れた時アパート探しからまた始めなきゃって思ってて、だから不安もあったんです」
「俺が同棲しようと言った時ね、やった~とか家賃浮く~とか雫ちゃんは思わなかったでしょ?さっきも逆に払うっていってくれた。俺の選んだ子は間違いじゃなかったと思ったよ。
それが俺の財産を預けていいと思った理由。模様替えも雫ちゃんと生活する為に明るくしたかった。
他の人が寝たベッドに寝させたくなかった。最初に寝さしてしまったのはごめん」
「あれは私が酔ったからで竜二さんのせいではありませんよ」
「食費として給料日に10万渡すよ」
「多いのでは?」
「足りないだろ?全部入ってるんだよ?クリーニングも酒もお米も水も、重いのは俺も買い物ついて行くからね。足りなかったら言ってね」
「わかりました」
「お盆の忙しい時期が過ぎたら雫ちゃんの家に挨拶に行きたい。順番が俺いつも逆だね(笑)同棲を認めてもらいたい」
「は……い」
雫は涙が溢れてくる
「ごめん、俺の勝手な考えだけ押しつけて強引だったかな?よくやっちゃうんだよね」
「いえ、そんな風に思っていてくれてたのが嬉しくて……昨日友達に竜二さんのこと話したんですけど、年も離れてるし遊ばれてるんじゃないの?って……
別れて住むとこなくなったらどうするのってカッコいいなら美人な彼女がいるはずって、家政婦と思われてるんじゃないのって言われて本当にそうだったらどうしようって」
「俺がどんどん早く進めていくから不安になったんだね。ごめんね、家帰ると雫ちゃんがいなくて寂しく思うようになっちゃってね、我慢できなくなってきたんだ。家政婦なら金払って雇うよ」
「ぐすっ、そうですね、生活のレベルが違いすぎてどうしようって」
「浪費家だったら俺つきあわないよ。意外?」
雫は頷く
「今の車は自分で貯めて買ったよ。これからは雫ちゃんとの生活の為に頑張って働くよ」
「無理は駄目です」
「ついでに言っとく。この間家で仲間が来たとき元カノがいた。大学卒業してお互い忙しくて自然消滅したんだけど俺の中では終わってるんだけど次の日イヤリングを取りに来た」
「あっ」
「追い返したよ。でも職場に来て仕事させてくれって訪ねて来て、それを後輩に任せた」
「夏祭りのイベントですか?」
「そう、だからこれからも仕事として、大学の仲間として会うことはあるけどもう俺には雫ちゃんだけだからね。今までの元カノとも同棲まではしたことないから」
「はい、わかりました」
「必死すぎた?(笑)」
「竜二さんは可愛くて(笑)あっ言っちゃった」
「俺、可愛いなんて言われたことないよ?」
「私にはそうなんです(笑)明日アパートの解約に行ってきますね。これからお願いします」
雫は頭を下げた
「こちらこそ、夏祭り一緒に行こうね」
「はい!」
竜二は雫の顎を持って軽いキスをし、もう一度長いキスをした
本社ビル、竜二の部屋に山口が訪ねてきた
「部長、当日の配置見てもらえますか?」
「ああ」
「抽選のおかげで売上が伸びてるそうです」
「まあ、そうだろうな(笑)、九時に終わったら今年の新入社員に駐車場のゴミ拾いな。
あと飲み物つけてやって、七時の時点で近隣の店舗から食べ物と飲み物をすぐ運べるようにと厨房の人間も確保」
「はい」
竜二の言うことをメモをとる
「向こうの会社は何か言ってきてるか?」
「真中さんは来ないのかと(笑)」
「(笑)しつこいなー」
「もしよろしければご関係を」
「元カノだ」
「さすが部長、あんな綺麗な人が彼女だったとは」
「まあ、あいつは美人だけど、どうやら俺はかわいい子が好きみたいだ(笑)もう六年も前のことだ。
この間サークルの仲間で呑んだら早速利用してきやがった。したたかな女だよ。夕方からプライベートで顔だすからな」
「本当ですか?」
「ああ、可愛い彼女と行くよ」
「楽しみにしてます」
山口は企画に戻っていく
昼休みになった
「部長、お昼に行ってきます」
「いいよ、あっそうだ」
「はい?」
「浴衣を買いたい。プレゼントで」
「はい、午後から手配しますね(笑)」
午後三時、真木がコーヒーを持ってきた
「コーヒーをお持ちしました。このお菓子は課長の出張土産だそうです」
「ありがとう」
「あと、当日のスケジュールを組んでみました」
真木から紙を受けとる
「エステ?」
「はい、体験したことがないだろうと思いまして、部長の家の近くを選んでみました。部長が待てないと思うので家で待機出来るように」
「そんなにかかるのか?」
「はい、ここはヘアメイクもしてくれますから終わってからヘアメイクして呉服屋へ浴衣を選びに行かれてそこで着付けしてもらえます」
「なるほど」
「時間とスケジュール組んでおきました」
「助かる」
「私も会場でお会いできるのを楽しみにしております」
「なんか、恥ずかしくなってきた」
コーヒーを飲みながらスケジュールを見る
「長っ!俺は何して待てばいいんだよ」
八月四日、竜二のマンション
雫は朝食の支度をしていた
「おはよ、雫ちゃん」
「あっ起きましたか?」
「うん、起きたら雫ちゃんいないんだもん、休みなんだからゆっくりすればいいのに」
雫に寄っていって朝のキスをする
「雫ちゃん、おめでとう」
「ありがとうございます(笑)」
「モーニング行ってもよかったのに」
「何か目が覚めてしまったので献立考えてたら作ってしまいました」
「今日何かしたいことある?」
「特には……お祭り楽しみです。雨も大丈夫そうでよかったですね」
「うん、そうだね」
「きっとビールがよく売れますよ」
(山口にメールしとくか、雫ちゃんの勘は当たるからな……)
‘近くの五店舗くらいにビールをいつもより多く冷やしておくように’
‘了解です’
(山口はもう会場行ってるだろうな)
「どこで食べるんですか?」
「駐車場にパイプ椅子とテーブルを置くってなってたよ。それは向こうが借りて用意するって書いてあった」
「私達は何時頃行くんですか?」
「七時くらいかなー、遅い?早い?」
「一番ピークくらいですね」
「とりあえず午前中はゆっくりしようよ、二時から連れて行きたいとこがあるんだ」
「はい、どこですか?」
「(笑)内緒」
竜二はソファーに横になってテレビを見ていた
「雫ちゃーん、ゴロゴロしようよ」
「これだけ干しちゃいますね」
普段通り家事をこなしていた
「終わりました」
雫は竜二の側にちょこんと座る
「雫ちゃんの好きな食べ物は?」
「私ですかー、えっと素麺と」
「あの素麺だし美味しかったね。俺も好き!雫ちゃんの手作り」
「母に教わりました。あとはお寿司と炊き込みご飯です」
「炊き込みご飯はまだ俺は食べたことないよ?」
「竜二さんは基本夜にご飯を食べないじゃないですか」
「うん」
「だから作ってません」
「朝御飯は食べるよ?」
「朝はタイマーで炊いてるでしょ」
「うん」
「タイマーでは駄目なんです。すぐ炊かないと」
「じゃあ、今日金曜だから明日の昼は?」
「朝買い物行けば大丈夫ですよ。じゃあ明日作りますね」
「やった!」
(こういうところが可愛いんですよ(笑))
「昼にお寿司の出前取る?」
「いいんですか?」
「うん、夜はお店に連れていってあげられないからね。うちの商品だし、何のネタが好き?」
「ウニとイクラと貝、何でも好きです」
「じゃあ適当に注文するよ」
「はい」
昼にお寿司が配達された
(高そう)
雫は配達された器からそう思った
「食べよ」
「いただきます。ん、美味しいです!こんな美味しいお寿司たべたことないです」
「たくさん食べて」
「竜二さんは何のネタが好きですか?」
「俺はやっぱりトロかな」
「廻るお寿司とか行きませんよね」
「全然行くよ。友達とかと、会社の会食以外は普通だからね。納豆巻きとか食べたり」
「ごめんなさい。納豆今まで私出してないですよね」
「もしかして嫌い?」
「はい、匂いが駄目なんです。食べたいならお茶碗を自分で洗ってください」
「目の前で食べるのは大丈夫なの?」
「はい、みんな給食で食べてるのは平気でした。洗い物の時が駄目なんです」
「わかった。じゃあ食べたくなったら自分で買ってくる」
「はい、お願いします(笑)」
お寿司を食べ終えてソファーでまったりとする二人
雫がうとうとし始める
「寝ちゃだめだよ。出掛けるんだから」
「お腹一杯で……」
「じゃあ動こう。着替えてくる」
「私はこの格好で大丈夫ですか?」
「いいよ」
二人は外に出掛けた
真木に紹介してもらったエステサロンに着く
「ここだ」
真木から教えてもらった紙を見る
「ここはエステ?」
「そうらしい、入ってみよう」
「エステは高いですよ~」
「予約入れてるから行くよ」
雫の手を引っ張って店の中へ入る
「すみません、真中です」
「どうぞ、いらっしゃいませ」
「雫ちゃん、終わる頃に迎えにくるよ」
(う~竜二さん……)
「エステは初めてですか?」
「はい」
「リラックスしてくださいね」
雫は顔とボディとヘアメイクで二時間半かかった
「お疲れ様でした」
「これは私ですか?」
「可愛いですよ。メイクとかわからなかったらまた教えますのでいつでも来店してくださいね」
「ありがとうございます」
雫が受付に行くと竜二が待っていた
「竜二さん!私こんなになっちゃいました」
「可愛いよ。髪もアップにしてもらってクルクルになってる」
「子供っぽくないですか?」
「まだ若いんだから(笑)」
二人は店を出て次の場所に向かう