「困るよ、ほんと。今月二回目だよね?」
「すみません……」

 彩也子は頭を深く下げた。あの後、相談所が彩也子を泊めてくれたのだが、久しぶりに酒も入っていたせいかうっかり寝過ごしてしまったのだ。彼女たちは彩也子が翌日休日出勤なことを知らず、寝かしておいてくれたらしい。目が覚めてすぐ青ざめた彩也子に三人とも謝り倒していた。
 周囲の目が痛くて、彩也子は身を縮める。

「前回さ、言ったよね? こういうことがまたあったらいろいろ考えるって。困るんだよ、そういうんじゃ。いろいろ気緩んでるんじゃないの?」
「すみません」

 声がかすれる。厳しい顔をした部長がため息を吐く。

「あと、書類の誤字脱字もひどいって聞いてるよ。ちゃんとチェックしてるの? まあ最近は直ってたみたいだけど……今日のこれ見るとねえ」
「すみません……」

 ついに、声が消え入りそうになる。もういいよ、と呆れたように締めくくられ、彩也子は再び頭を下げてその場を後にした。
 涙が滲みそうになるのを必死にこらえる。非があるのは自分だ。泣く筋合いはない。それでも情けなくて、不甲斐なくて、どうにも抑えられなかった。

(せめてトイレまで……)

 近づいたそこで、洗面所から会話が聞こえてきた。
 彩也子が特に苦手な、同僚の三人組だ。かちゃかちゃと、化粧品同士がぶつかり合う音がする。

「あの子今日また怒られてたよ。そんでまた同じ服着てた」
「うっわ。まじ?」
「でも彼氏超イケメンだよねあの子」
「そうなん?」
「あー歩いてんの見たことある」
「いや絶対浮気されてるって」
「こら」
「でもそういうもんでしょ」
「あの子気づかなそうだよねー」

 そこまで聞いて、彩也子は踵を返した。