わらしがぱちぱちと拍手をした。きつねが頬杖をついてにやにやしている。
 
「どう、実際別れてみて」
「超すっきりしました」
「悪い顔してますねー、きつねちゃん」
「やっぱり面倒くさい男と別れた時ってみんな元気になるよねー」
「あとダメな会社!」
 
 彩也子としてもこんなに晴れやかな気分は久しぶりで、いかに少し前の自分がぼーっとした状態で仕事をしていたかに気が付かされる。

「あ、そういや、仕事どうなった?」

 諒一を追い出した後、彩也子は会社に電話をかけて、丁重に今回の件の謝罪と近々退職をしたいという意思を伝えた。いくら彩也子が損失を出したとはいえ、従順な働き手を失いたくない会社は引き留めにかかったが、貫き通した。わらしのアドバイスに従い万一にでも破り捨てられないよう、多数の目撃者の前で録音していると脅しながら退職届を受理させ、今は有給休暇をとっている。

「ほとんど勢いだけでやっちゃったんで……まだ何も」

 不安がないと言ったら嘘になる。それでも、きっと、同じ環境に耐え続けるよりもましなはずだ。
 ――なにより、彩也子は決断と行動を起こせた自分に、心の底から満足していた。

(一度できたんだもん。きっと、もう一回できる)

 こちらを見つめる三人のあやかしに笑いかける。
 にっこり、微笑み返す三人。
 きつねが尻尾を、ゆらり、揺らす。

「人生の休息ってことだよ、ゆっくり考えな」
「はい、最近は昔の友達に連絡とって、集まりに呼んでもらったりとかしてます」
「楽しくやってる?」
「――はい!」

 きつねが柔らかく目尻を下げた後、そっと身をただした。

「あやかし恋愛相談所はね、恋バナしに来るところ。だから、『相談所』。解決はしないよ。自分の問題に立ち向かえるのは、自分だけだから」

 わらしとろくろがこくこくとうなずく。

「でも、私ら相手にいっぱいいっぱい話して、いっぱい笑って、いっぱい泣いたら……結構元気になるでしょ? それで、元気になったら、思ってたより勇敢な自分に出会えるはず。そしたらまた、新しい恋愛に向かって進めるでしょ。ひとつ素敵になった自分でね」

 その言葉を聞いて、彩也子は口を開いた。

「実は、最近気になっている人がいるんです。さっき言った友達経由で知り合った人なんですけど」
「まじか!」
「おめでとう、彩也子ちゃん!」
「今お酒持ってくる!」
「わたしもスイーツ買ってきます!」

 わらしが台所へ飛び込んでいく。ろくろがばたばたと外出の支度を始める。

「いーじゃん。聞かせてよ、その人のこと」

 色めき立った二人が和室を駆けまわる中。
 一人その中心に腰を据えた狐耳の少女は、ぱちりと片目をつぶった。

「あやかし恋愛相談所、のろけ話だって、受付中だよ」