「近づく女は許さない」


自らが発した言葉はその通りだからだ。


浮気なんて見過ごしてはいけない。

許してはいけないのだ。

信二は自分だけのもの。
信二は自分を愛していると言って、美波も信二を愛している。

二人の間に割ってはいるなんて、誰であろうと絶対に許してはならない。
そんなことは当たり前のことで、普段の自分がどうかしているのだ。

甘いのだ。

そう……これまでが甘過ぎたのだ。

厳しくならなくてはならない。

愛し合う二人のために……。


そう思うと、おかしいくらいに体は軽くなった。
美波は走り寄ると、早見の腕を掴み、


「こっちへきなさい」


有無も言わさずその場から連れ去っていた。


その勢いに圧倒されたのか早見は抵抗せず、されるがままついてくる。

(はじめからこうすればよかった)

体中を駆けめぐるドロリとした熱いものは、今は快適にすら感じる。
途中、


「先生、恐い顔してどうしたんですか?」


すれ違い様に話しかけてくる生徒がいた。


その生徒には、見覚えがあった。


「あなた……」


それは、信二に勉強の質問と称してよく近づいている女子生徒だった。
肩が触れるほどの距離で教えられているのを何度も見かけたことがある。


「あなたもいらっしゃい」


「どこか、いくんですか」


「話があるの、早見先生とあなたに」


「でも午後の授業、もうすぐ始まりますよ」


「そんなもの、どうでもいいの。授業なんかよりも、とても大切なことだから。──さあ、行くわよ」


「あ、はあ……」


開いた手で生徒の手首を掴むと、弓長は再び歩き出した。



信二との未来のために。