司はイスに腰掛けると、足を追いかけて着いてくる来夢に、


「来た理由はわかった」


と、すぐに察したようで、好きにさせてくれる。

二人の一連のやりとりを他人が見たら、なんのことやらであろうが、弓長はクスクスと笑うと、急に真顔に戻った。


「それが彼女の持つあやかしの子孫に発症するというなごりですか」


「すねこすりだ。さっきも言ったが、お前のなごりは清姫。症状は嫉妬だ」


どうやら司がなごりの説明をしていたようで、弓長は来夢の行動に違和感はないようだった。


「自分だけのことを言われていたら半信半疑でしたけど、北条さんの学校での奇行がそれだと言われれば納得です。それで……」


弓長は体を起こすと、二人を見据えた。


「理解ある司さんが、恋人として北条さんを支えているのですね」


「こ、恋人!」


突然の恋人というフレーズに、来夢はドギマギするが、


「そういうことだ」


司はしれっと答える。そして目配せで、「わかったな」と来夢へ伝える。

おそらくは、なごりの説明はするが、少しでも嫉妬を避ける為にも、その設定は続けるということであろう。

すぐに理解した来夢は、コクコクと頷く。


「……うらやましい」


弓長はかすかに呟くと、


「それでは、私はこれで」


静かに部屋を後にした。


「もう、カウンセリングは終わったんですか?」


「あやかしなごりの説明は済んだ。まずはそれを受け入れてもらう。なごりが発症してから日が浅いせいか、自分は極度に嫉妬深い醜い性格なんだと思いこんでいたらしいからな」


「醜い性格、ですか……」


来夢は弓長の消えた扉を、静かに見つめていた。