一年前、高校入学初日。

新生活に気が高ぶり、前日すぐに眠れなかったせいで寝坊してしまった陽葵は、学校への道のりを懸命に走っていた。

そこへ後ろから同じ高校のブレザーに身を包んだ男子が、同じく必死に走りながら現れた。

彼は一端は抜き去っていったが、すぐにペースを落とすと走る速度を陽葵に合わせた。


『この先の路地を右に入って道なりに進めば学校までの近道だから』


それだけ言うと、再びスピードを上げ先に右の路地へと消えていった。

親切に教えてくれた。素直にそう思った陽葵も後を追って、言われた道を進んだ。

おかげで遅刻せずにギリギリ学校へたどり着くことができた。
隣町から電車通学の陽葵には土地勘がなかったため、もしあのままの道を真っ直ぐ進んでいたら、おそらく遅刻していただろう。

間に合った……。そう胸をなで下ろし教室に滑り込み息を吐くと、


『近道、だったろ』


すでに席についた彼の姿があった。


『同じクラスだったの?』


『そうみたいだね。俺は結城智也。よろしく』


『私は、石田陽葵。近道教えてくれてありがとう』
 
初日からそんなできごとがあったせいか、すぐに智也とは打ち解け、仲良くなるのに時間はかからなかった。


そして、あの出会いからずっと彼のことが気になっていた。
最初は、走っていたドキドキと遅刻しなかった嬉しさのせいだろうと疑うこともあった。

だが、仲良くなっていけばいくほど、好きという気持ちは大きく膨らんでいき、今では迷いなく智也が好きだと言える。

彼女になりたいという気持ちもある。このまま仲のいい友達では終わりたくないと。

それが、最近すごく大きくなっていることにも気づいた。

理由は陽葵自身心当たりはあった。

智也が告白されたからだ。

仲がいい異性は自分だけと安心していたが、仲がよくなくても好きになる相手はいる。

放課後、隣のクラスの女子にずっと好きだったと告白されているのをたまたま見てしまったのだ。
背が小さくて可愛らしい子で、明るくてちょっとガサツな陽葵とは対照的な女の子らしい子だった。

智也が返事をすぐにしなかったというのもあるが、それからというもの陽葵の胸の中にはいろいろな気持ちが渦巻いてずっとモヤモヤしている。