その時の話はこうだった。

この春、新しく赴任してきた新人教師に弓長美波を見つけた高見沢は、これは運命だと感じ意を決して昔のことを謝罪した。

何年も絶縁状態だったが、弓長はそれを心良く許してくれた。それどころか泣いて喜んだという。

それから空白の時間を取り戻すように二人はデートを重ね、かつての曖昧な幼なじみから本物の恋人になった。

それでめでたし──のはずだった。が、そう簡単に幕引きとはならなかった。

会えない【時】は彼女を変えてしまっていた。

表面上は昔と何も変わってはいないのだが、極度の、いや病的なまでのヤキモチ焼きに変貌を遂げていたのだった。


正式に付き合うと決めた翌日、高見沢はいつも通り学校へ向かっていると同僚の女性教師とバッタリ出くわした。


「おはようございます。高見沢先生」


「おはようございます。早見先生」


「今日は暖かいですね」


「ええ」


所謂、社交辞令的な挨拶を交わしていると、


「信二くん!」


血相を変えた美波が駆け寄ってきた。


「美波?」


「なにをしているの!」


「なにって、学校に向かっているんだけど──」


「早見先生と? 一緒に? どうして?」


「いや、たまたま会ったから──」


「たまたま会ったら仲良くするの?」


「え?」


いつものおとなしい美波とは違う、まるで別人のような態度に高見沢が戸惑っていると、


「あ、えっと、それじゃあお先に」


同僚教師は危機を感じたのか、早足で行ってしまった。
残された高見沢へ美波は、怒りを隠そうともせず告げた。


「浮気は絶対に許さない……」