「お前なんかのなにがいいんだよ!」
殴った相手はイケメンで女子受けも良く、大学ではかなりの人気者だった。
そのせいか周りは、殴られた高見沢ではなく殴った相手に同情的な雰囲気だった。
現場となった学内の中庭には、高見沢に対する悪口があちこちから囁かれる始末となった。
「ああー、ムカツク」
そんな状況を見て少しは気が晴れたのか、相手はそう言いいながらも何事もなかったように簡単に去っていった。
「信二くん!」
そこへ、入れ違いに美波が現れた。
「大丈夫?」
美波は高見沢が絡まれているのを友人に教えられ、急いで肩で息をして駆けつけてくれた。
だが、
「触るな!」
高見沢の怒りは彼女に向いていた。
痛みと恥かしさのせいからか、頭に上った血のやり場を唯一向けられる美波へ向けていた。
殴った相手も、周りに面白がって集まる野次馬も、中学や高校時代に嫌がらせをしてきたやつらも、すべてが最低だった。
昔から十年以上、何度も何度も何もしていない無害な自分に害をなす最低なやつらだ。
そんなやつらへの積年の怒りまでもがフラッシュバックし、この時すべて彼女に向かったのだった。
「……お前のせいだ」
「え?」
「お前が、僕の側にいるから僕はこんな目に合うんだ。中学の時も、高校の時も、いつもいつも……」
「そんな……」
「……当分、僕には近寄らないでくれ。電話もメールもなにもするな」
「信二、くん……」
「話しかけるな! いいな! いいって言うまでずっとだぞ!」
その日から、高見沢は美波と疎遠になった。
言い過ぎたと翌日には後悔したのが、感情を思い切りぶつけてしまったのがはじめてだったということもあり、どうしたらいいのか分からず、嫌われたかも等と考えている間に月日だけが過ぎていってしまったのだった。