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幼なじみ。

その響きは、人によってはとても甘美に聞こえるものだという。

親同士が隣に家を立てるほどの親友で、物心ついた頃から一緒にいる。
年齢は一つ下で学年こそ違うが、幼稚園も小学校も中学、高校、大学の学部までずっと同じ。

毎年の家族旅行も二家族合同だったし、夕飯も週の内半分は共にテーブルを囲んでいた。

しかもその相手が、美人で気立てもよくやさしい女性となれば、尚更である。
高見沢は学生時代、周りから羨望と嫉妬の入り交じった眼差しを常に浴びていた。

弓長美波という幼なじみのおかげで。

彼女は子供の頃から容姿端麗でやさしいと評判の女の子だった。

さらには、


「美波ね、大きくなったら信二くんのお嫁さんになる」


「うん、いいよ」


なんて幼少時代の約束を忠実に守ろうとする一途な娘でもあったから、特に嫉妬はヒドかった。


「おまえには勿体ない」


「たまたま親が親友同士だっただけなのにな」


なんてセリフは何十回となく飽きるほど言われてきていた。

美波に想いを寄せる男たちからのイジメや嫌がらせを受けたことも一度や二度ではなかった。

美波のことは決して嫌いではなかった、むしろ好きだという自覚もあったが、そんな理不尽に思える周りからの攻撃に高見沢は耐えられなくなった時期があった。

大学卒業を目前に控えた冬。

きっかけは美波にフラれた同級生に、腹いせに殴られたことだった。