言い掛けたところで、教室の扉が勢いよく開いた。


「信二! 隠れても無駄よ!」


弓長の怒声が部屋中に響きわたった。


「どこにいったって必ず見つけだすわよ! 絶対に逃がさない! あの泥棒猫女もね!」


その圧力に、思わずビクリと揺れた北条の体が机を揺らす。


「そこっ!」


それを見逃さず、弓長は教室の中へズンズンと入ってきた。


「逃げるぞ!」


「あ、は、はい!」


高見沢は立ち上がると、弓長がきたのとは違う扉を目指して走り出した。


だが、


「せ、先生!」


出遅れた北条が追いつかれてしまった。


「つーかまえたー」


「北条ーー!」


「キャアアアアアア!」


全身で行く手を阻む弓長の指先がゆっくりと北条の首へ──届くことはなかった。


「ったく」


冷静な声と共に北条の体はふわりと浮いていたのだ。


「え?」


正確には、いつのまに現れたのか、目つきの悪い男性が北条を抱え上げていた。


「来夢。なにをやってるんだ、お前は……」


「司さん!? どうしてここに?」


「神代先生!」


「え? 先生? 司さんが?」


二人の驚きの声にも表情を変えず、


「話は後だ」


男性は走り出した。


女の子を抱えているとは思えないスピードに高見沢は、必死でその後を追った。


「待ちなさーい!」


その速さに弓長の声は、次第に遠ざかって行った。