校内へ入り、廊下をダッシュし、階段を一段飛ばしで駆け下り、誰もいない暗い教室へ飛び込む。
「ハア、ハアハア……大丈夫か、北条」
最奥の机の影に隠れると、やっと掴んでいた生徒に声をかけた。
「だ、大丈夫じゃないです……途中から引きずられてました」
そう言われれば、階段を降りたあたりから、ズッシリとした重みがあった気がするし、「ヒャアアア」とかいう間の抜けた声が聞こえなくもなかったが、必死でそれどころではなかった。
「私、モップじゃないんですよ」
「す、すまない」
幸い怪我はなかったようで、スカートの埃を払う北条を見て一安心する。
「それより、なにがあったんですか? さっきの弓長先生ですよね」
彼女の言うとおり、鬼の形相で追いかけてきたのは、高見沢の同僚教師、弓長美波だった。
そして、屋上へ出て気分転換をしたかった悩みの現況でもあった。
「普通ではなかったですよ、ね……」
これもまた言うとおりで、弓長は普段はおっとりとした性格で外見も美人。理解もあり生徒たちから人気の教師なのだ。
それがなぜ、ああも恐ろしくなってしまうのか……。
「じつは……」
「実は?」
ガン!