「しーんーじー!」

見上げたはずの天に澄み渡る空はなかった。

変わりに、髪の長い女性が空を覆い隠し高見沢をのぞき込んでいた。


「女子生徒と、なにをしているのかしら」


女性は一見微笑んでいるようで、目の奥はまったく笑ってはいない。

高見沢には分かる。


「まさか……浮気?」


コメカミに立てた青筋をピクピクと痙攣させ、拳を握りしめていることからも、明らかに怒っているのが。


「ほ、北条! 逃げるぞ!」


「え?」


よくわかっていない北条をなんとか起こして、高見沢は走り出した。


「逃げるの? そう……なら、やっぱり浮気なのね」


女性は呟くと次の瞬間、


「信二ー!」


髪を振り乱し、鬼の形相に変化していた。


「許さないわよー!」


口調も荒々しい怒声へと様変わりしている。


「キャアアア!」


よほど恐かったのか、振り返って女性を確認した北条が悲鳴を上げるが、高見沢はその手を掴んで一目散に逃げた。