「ふ、ぬぬぬうぬぬ」


あまりきいたことのない声を出し、高見沢が落ちないようふんばる女子生徒の姿があった。

それは、高見沢が担任をしているクラスの生徒で学校では奇行で有名な人物。


「……北条?」


「はい、元気です!」


「……」


返事も独特であった。


見た目は明るく真面目な印象なのだが、授業中に「洗い物してきます!」とおかしなことを言いだして教室を抜け出すことがしばしばある問題児でもある。


今だって彼女が声をかけてこなければ、こんな状況に陥ることもなかったのだ。

セリフからもおそらくは信二が飛び降り自殺をすると勘違いしての行動だろう。

まったく人騒がせではあるが、そうも言ってはいられないのも事実。

体の重心は屋上の外側にあり、彼女が辛うじて掴んだベルトを引く力で均衡を保っているのだ。

彼女が手を離せば十数メートル下へ真っ逆様という状況だ。


「わっ!」


高見沢の重みにズリッと彼女が引っ張られる。


「ふぬうう!」


再び力を入れ直し、なんとか持ちこたえてはくれたが、少しでも彼女が気を抜けば高見沢を支えるものはない。


とは言え、華奢な女子高生が大人の男の体重をいつまでも支え続けるのは不可能。
いまだって男子には見せられないような必死の形相でがんばってくれている。


「んぃぐうううっ!」


「北条、悪いがもう少しそのままがんばってくれ」


信二は急いで体勢を立て直すべく、まず足に力を入れ、重心を後ろへ持っていこうと試みるが、


「あっ!」


「ええっ!?」


動いた拍子にツルンと彼女の手がベルトから離れた。