いっそ死んでしまった方が楽なのかもしれない。


高さにして十数メートル。

学校の屋上に出ると、ふとそんな考えが頭を過ぎった。

高見沢信二は落下防止で気休め程度に少し高くなった縁に足をかけると真下を見下ろした。


「……高い」


ぶるっと身震いする。

下を歩く生徒たちも顔が判別できないほど小さく見える。

真下はコンクリート。ここから飛び降りたら確実に死ぬことができるだろう。
きっと痛みは一瞬で、後は楽になれるはず。
深い悩み事や日々の辛さなんて自分の存在ごとすべて消えてなくなるのだ。


「……」


しかし、高見沢は本当に飛び降りてやろうとここへ来たわけではない。


屋上へ来たのは少し落ち着きたかったからだった。

イヤ、と言うかかなり気が滅入ることがあって、誰もいない場所で外の空気を吸って、気を静めたかったのだ。

学校の屋上は普段立ち入り禁止ではあるが、教師という立場を利用すれば簡単に入れるこの場所で、気分を変えたかった。


それだけだったのだが……、


「ダメです!」


突然、後ろからかかった声に驚き、体がビクンと揺れた。

勢いで体勢が崩れる。

少し身を乗り出していたせいで、重心が更に空中へ移ってしまった。

上半身は屋上の外側だ。


「ちょっ、うわっ!」


手をバタバタさせて、なんとか元の体勢へ戻そうと試みるが、上半身は屋上と外側をいったりきたりする。


「お、お、落ちる!」


ヤバイ! そう思った時、


「死んじゃダメですー!」


再びかかった声と共に、寸前で体がピタリと制止する。


半分以上体が空へ出ているが、声の主が高見沢の腰のベルトを掴んだのが腹へかかる圧でわかった。


ゆっくりと首だけ回して確認すると、そこには。