幸い一ヶ月の入院で後遺症もなく元気に戻ったが、柚葉はもう彼と一緒にいることは出来なかった。

自分の嫉妬のせいで大切な人を殺してしまうところだったから……。


それからほどなくして響子の存在を知った。話したことはなかったが、同じクラスで同じように不思議な力に翻弄されていた響子に。

不思議な力を持つもの同士だから気付けたのかは分からないが、とにかく見つけてしまった。

彼女はもの凄く上手に物を盗む子だった。高校生とは思えない神業で、一瞬で狙ったものを懐に納めていく。

ただ、やりたくてやっているようには見えなかった。いつも盗んだ物はそっちのけで後悔した顔で肩を落としていたから。

その日も、そんな感じだった。前日盗んだ物のことなんてすっかり忘れて鞄から落としてしまったのだ。
そこで大騒ぎになる直前で、柚葉はうまく機転をきかせて彼女を救った。

どうしてそんなことをしたのか答えは簡単だった。力に翻弄された自分を見ているようで見ていられなかったのだ。

それからというもの、悪いことだとは分かっていながらも彼女が盗みをする時は、人知れずフォローしてしまう自分がいた。
バレそうな時は、柚葉が力を使って彼女の存在を人の目から隠してきたのだ。
何年も……。


「最初に見せた防犯カメラの映像。消えていたのはお前の仕業だな」


「響子が盗む姿がばっちりと映っていましたから」


「ついでにお前も物を隠していたという訳か」


「あら、それも気付いていたのね」


「なごりを完全に制御できるやつなんていないからな」


司の言うとおり、柚葉自身、神隠しのなごりである物を隠すという衝動を押さえられていた訳ではなかった。
力に目覚めてからというもの。響子ほどではないが、人や物を隠したいという欲望が時折顔を出す。
それは自分で制御できる類のものではなかった。

署内での盗難、紛失事件。その一部は柚葉のものだ。ただ隠していただけなのですべて発見されてはいるのだが……。