「まさか、命まで狙っているなんて思いませんでしたけどね」
あの時は必死で体が勝手に動いたが、自分の行動を思い出して来夢は身震いする。
「それにしても本城さん、殺されるところだったのに許してくれたってことは、あやかしなごりを信じてくれたってことですかね」
「そうかも!」
「違うな」
蒼士が肯定するが、それに被せて司が打ち消した。
「信じたくないからすべてをなかったことにしたんだ」
「信じたくないから?」
「あやかしの血が原因なんて現実主義のあいつには理解不能だろうからな。理解できないものはない=最初からこんな事件はなかった。大方そういう方程式だろう」
司はキッパリと言い切る。が、
「半分正解で半分不正解です」
ぬいぐるみの並ぶ棚の方から、なぜかエプロン姿の当の本人──本城が現れるのだった。
「け、警視! なにをして?」
蒼士は驚いて咄嗟に敬礼までするが、それを手で制して本城は続ける。
「起こったことは事実として認めています。要するに理解はしているということです。その証拠に私はあなたとの約束を守ってこうしてお人形屋さんの一日店長をしている」
「ただの無給バイトだ」
司はすかさずツッコムが、それをスルーして本城はさらに続ける。
「しかし、それが納得できているかといえばそれはまた別の話です。あやかしの血が人を動かすなど、ありえない。少なくとも私にそれは非現実的すぎます」
「だから、なかったことに?」
蒼士は疑問を投げるが、そこで、
「すいませーん」
来店客があり、本城はそちらへ行ってしまった。