「撃たないでください!」


彼女は本城と響子の間に立って両手を広げた。


「なごりで我慢できないのはわかります。でも、人を殺すなんてダメです! しかもこれは勘違いなんです!」


「勘違い? なによ、それ──」


さっきの男性のセリフといい、何を知っているというのか。
響子の頭に疑問が湧くが、それもすぐにあの声にかき消されてしまう。


〈盗るんだ! 盗れ!〉


「柚葉さんは本城さんじゃなくて──」


「クッ……ど、どいて! 退きなさい!」


頭を抱えた響子は考えるのを諦め、少女を怒鳴っていた。

こうしている間にも指は引き金を引こうと力を込めていくから。


「ダメです!」


女の子の瞳には、強い決意が宿っている。

どうしてそんなに止めたいのだろうか。

ただの他人なのに……。


「お願い……逃げて……」


こんなに、声に抵抗したのはいつぶりだろう。
初めてオモチャを盗んだ時だろうか? 
いいや……、はじめて柚葉に秘密を打ち明けた後だ。「悪いことは悪い……けど、自分ではどうにもできないこともあるわ」と、理解してくれ、受け入れてくれた柚葉のためだった。


「もう……限界」


視界が歪んでいく。
意識は自分であり自分ではなくなっていく。


遠くに銃声が聞こえる。


響子はそこで意識を手放していた。