「しかし、なぜ?」


ゆっくりと立ち上がり両手を上げながらも、本城の疑問はもっともだった。
響子と本城に直接の関わりなんてほとんどない。せいぜいが挨拶を交わす程度の仲だ。

けれど、響子にはあった。いやできたのだ。本城の命が欲しいとそう思ってしまった出来事が。


「あなた、柚葉にプロポーズしましたよね」


「なぜそれを!」


「本人から聞いたんです。どうしてそんなことを」


「? それは……もちろん好きになったからですが……それよりあなたは何故私の命を?」


「告白なんてしたからです!」


響子は銃口を本城の顔へ向けた。


「ちょっと待ってください。プロポーズをすると誰かに命を狙われるのですか。そんな理不尽な──」


「理不尽なんかじゃない! そのせいで柚葉は、あなたと、一緒になるために親友の私を裏切った! 十分な理由でしょ!」


「あなたを裏切った?」


「そうよ! プロポーズを受けてから柚葉はずっと悩んでいたわ。どうしようか。それはそうよね。泥棒の親友がエリート警察官の妻になんてなれるわけがない。少なくともそれを相手に隠して結婚できるほどあの子は曲がってはいない」


「泥棒の親友……」


本城は、まったく要点がつかめていないようだったが、響子は別にそれでもよかった。勢いで怒鳴ったが、説明する気があった訳でもない。

ただ、欲したものを盗めればそれでよかった。


〈簡単だ、盗ってしまえ〉


引き金に指をかけると、気持ちが楽になってくる。
意識は朦朧としてくるが、いつものこと。
欲しいと強く思った物を盗む時は、自分で止めることは到底出来ない。


〈盗れ〉


後はいつも通り囁くその声に身を委ねればいい……。


「──さようなら、柚葉」


ドン!

一発の銃声が室内に鳴り響いた。


だが、


「なんで……」


撃たれたはずの本城警視は、先ほどからと同様、机の向こうに両手を上げて立っていた。

拳銃を確かめると、銃口はなぜか上を向いている。いいや、向けさせられていた。


後ろから現れた人物によって。


「あなた……」


それは、響子もよく知る人物。柚葉の部下で気の良い性格の男性。


「ギリギリセーフ」


藤原蒼士だった。