しかも、よくわからない内容で。


「このお財布、昨日の帰り道、薬局の前で拾った物でしょう」


「え?」


「あら、忘れんぼさんね。一緒に祐子のじゃないかって中を確認したじゃない。ポイントカードに名前があったから本人のだって。それで明日返しましょうって、ね」


言いながら財布を拾うと、柚葉は祐子に手渡した。


「自慢してたから誰かがいじわるしたのかもしれないわ。気をつけてね」


「あ、ありがとう……」


「中身はちゃんとあるかしら?」


「う、うん。お金もちゃんと入ってる」


「そう、よかったわ」


ここまでくると、場の空気は一変していた。


「あの、ありがとう。疑ってごめん」


財布を無くしていた祐子はお礼まで言うと、その場に集まっていたクラスメイトたちと解散していく。

そこまできてやっと気がついた。
なぜか、柚葉が庇ってくれたのだ。

どうして? そう思っていると柚葉に手を取られる。


「こっちへ」


逆らわずについて行くと空き教室へと連れてこられた。

誰もいない静まりかえった教室。そこで、


「泥棒さんはよくないわ」


開口一番、ズバリ言い当てられてしまう。


「なんで、知って──」


「見ていたから全部。盗むところを」


だからと言って責めるでもなく柚葉は、静かに続けた。


「なにか、理由があるのよね」


「へ?」


「こんなことする人にみえないもの、響子は」


その一言で、涙腺が崩壊していた。同時にいままで内に閉じこめていたものが、一人きりで抱え込んでいたものが一気に溢れてきた。
理解してくれるのかもしれない。
そう直感すると響子は、初めて嘘偽りなく自分が犯されている病気のような症状を話した。というよりは、考えるより先に口からどんどん流れ出てきた。
盗みを知っていて、自分を糾弾しなかった。ただ単純に悪いことだと否定のみで終わったりしなかった。

この人なら信じてくれるかもしれない。そう思えたから。