立ち止まったのは、一軒の古民家の前だった。
「カフェ、ですか?」
「いいや」
司は鍵を取り出し、扉を開ける。
と、
「うわあ、カワイイ」
なかは、大小たくさんのぬいぐるみで溢れかえっていた。
「ぬいぐるみ屋さんですか」
「正しくは人形屋だがな」
言いながら指し示した先、入り口上部に取り付けられた看板には、確かに【わらし人形店】と書かれていた。
「あの、なかを見てもいいですか」
「ああ」
どんな理由で連れて来られたのかはさておき、ここまでのやりとりから、司はぶっきらぼうではあるが不審者には思えなかったので、好奇心から来夢は中をのぞいてみることにする。
店内は木造で落ち着いた雰囲気はあるものの、そこに並んだ動物をデフォルメしたものや架空の生き物のぬいぐるみたちでファンシーな世界を作り上げていた。
そんな中でも来夢の目を引いたのは、
「これ、お化け? ですか。……ぶさいくです」
丸い体に短い手足のついたうす茶色の小さなぬいぐるみだった。
まん丸の大きな目は遠くを見ているようで、ボケッとしたまぬけ顔がなんとも言えない。
「……きつねだ。俺の手作りのな」
「手作り! ご、ごめんなさい! えっと、きつねには見えませんが、ブ、ブサカワイイです」
司は一瞬ムッとしたものの、慌てる来夢に悪気はないと思ったのか話を変えた。
「外見はともかく、そいつは小運のぬいぐるみと言って、少しだけ持ち主に運を運んでくれる」
「小運? ラッキーになるお守りみたいなものですか?」
「なごり持ち限定だがな」
「なごり、持ち?」
聞き慣れない言葉に、来夢が首をひねっていると、
「つかささん! 司さんはいますか!」
血相を変えた女の子が、店に飛び込んできた。