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「一度、整理しましょう」
三階にある第二会議室。
来夢は司、蒼士の二人と顔を付き合わせていた。
「ぞ、ぞうじよう」
「……」
前に座る蒼士は昼食に付いていたプリンを頬張りながらだし、横にいる司は複雑な顔をしているが、そこは気にしないようにする。
蒼士はずっとマイペースだし、司はテーブルの下で来夢に脛をめちゃめちゃスリスリ撫でられているのだから、突っ込まれずにいるだけまだましだろう。
実はあの後、司の手を取って走り出したのは他でもない。
すねこすりのなごりが発動してしまったからだった。
普通ここまで来れば、柚葉を脅していた交通課の中田を問いつめに行くとか、犯人を知っている柚葉に事情を聞こうとか、捜査らしくなるはずであろう。
しかし、こんな時に限ってあれはやってくるのだ。
人の気持ちなんて度外視で、自由奔放なあの発作──あやかしなごりは。
かと言って、それに翻弄だけされている場合ではないことはわかっている。
だからこそ、一度この機会に整理しようと思ったのだ。
単純な盗難事件ではなくなってしまったこの事件を。
「まず、私と司さんがここ、浅草警察署へ来た理由は不可思議な盗難事件の捜査協力です。そうですよね蒼士さん」
「うん。ぞうだよ──あ、司食べないならプリンちょうだい」
「結論から言います。私が更衣室のロッカーに隠れていた時に入ってきた女性が、その盗難事件の犯人とたぶん協力者です」
「へ? ごほごほ! そうなのっ!?」
蒼士は喉にプリンを詰まらせて驚くが、司は、
「そろそろ手を止めたらどうだ。落ち着かん」
と、来夢の動き続ける手が気になる様子。
「は、はい、分かってます……でも、布越しだとなかなか手が納得してくれないんです。ズボン捲ってもいいですか」
「とんだ変態発言だな」
「な、なごりですよ! わかってるクセにイジワルです! ──もう、いいです! このままで」
来夢は本日何度目かとなる頬膨らませをすると、本題を続ける。
「犯人も物を盗んでしまうのを自分ではやめられないって言ってました……。まるで、私と同じみたいに……」
「物を盗むあやかしのなごりか……」
「あるのですか?」
「心当たりはある。お前が言うなら疑う価値もあるだろう」
「私が言うと、ですか?」
「あやかしの血を持つなごりもち同士は、なぜか引き寄せ合う性質を持っているからな」
「そう、なのですか?」
そう言いながらも、更衣室で話を聞いた時から、来夢には犯人があやかしなごりの持ち主だと言う気がしていた。
理屈ではなく勘のようなものだから、断言はできないが、なんとなくそんな気がするのだった。
そこで、来夢は更衣室で耳にしたことをすべて二人に話してきかせた。
「それって、なにかの間違いじゃない? 二人のうちひとりが……」
「柚葉さんで間違いなかったです」
蒼士と司は、本城に捕まっていたせいで柚葉たちが更衣室から出て行くところをみていないのだ。
「そう……。でも、それはちょっとおかしいかな」
「どうしてだ」
納得できない様子の蒼士に対して、相変わらず淡々とした口調の司。
「だって、柚葉さんは僕の上司で警察の人間だよ。やさしいし正義感だって強いし。第一、司を呼ぶことをOKしたのだって柚葉さん自身なんだよ」
「捜査を攪乱させるためか」
「それは……ないとは言えないです。警察のみなさんは不可思議なことには否定的ですし、そのせいで司さんは本城警視さんとモメていますし」
「本城の話では、あいつに報告を入れたのも柚葉だという話だったな」
「考え過ぎ、じゃない? ……だって、ねえ、柚葉さんは良い人でしょ
、来夢ちゃん」
だんだんと歯切れが悪くなる蒼士に悪いとは思いながらも、来夢は首を振った。
「良い人でも、なごりには逆らえないんです。私が聞いた話では柚葉さんは友達を止められなかっただけみたいですけど」
「柚葉さんが犯行を知っていて黙っていた……」
蒼士はよほどショックだったのか、流石に食べる手を止めて、ガクッと肩を落とす。