と、
「ちょ、ちょっと待ってください。誤解です!」
扉の向こう。廊下から、蒼士の悲痛な叫びが響いてきた。
急いで更衣室を出ると、近くに階段がありそこの踊り場では、
「いいえ。いま、確かに君たちは女子更衣室を尋常ならざる目付きで見ていました。更には覗きに行こうという声もはっきり聞こえました」
銀縁眼鏡を指先でクイッとあげる本城警視。
そして、
「それは半分正解だが、半分は正しくはない」
やれやれといった様子で、ハアーとため息を吐く司が向かい合っていた。
蒼士は二人の間であたふたとしている。
周りには通りすがりの警官や事務員、デリバリー配達員までが何事かと集まっていた。
「どうしたんですか」
声をかけると、助かったと言わんばかりに蒼士がやってくる。
「いやあ、ここから更衣室を見張っていたんだけど、やっぱりちょっと心配で。少し覗こうかと話してたところに警視がきて」
「ああ、そうだったんですね」
事情はすぐにわかった。
本城警視は女性の着替えを覗き見しようとしていたと勘違いしているのだ。
説明すればばすぐに誤解は解けるはずなのだが、
「半分とはどういう意味ですか? お人形屋さん」
「覗きにいこうとしていたのは蒼士で、俺にそのつもりはなかったという意味だ」
二人はエキサイティングしていた。
「司~、僕だけ犯罪者みたいな言い方やめてよ~」
「藤原くんはこう発言しているが、それでも君はやるつもりはなかったと?
警察官である藤原くんが嘘を言っているとそう証言するのかい」
「警官とて人間だ。時と場合によっては覗きもするし嘘もつくだろう。そんなこともわからないのか、頭でっかちのキャリアは」
「ふむ。そうやって怒りを煽って話をすり替えようとしても無駄ですよ。お人形屋さん。そんな小賢しい犯罪者の考えなど、私にはすべてお見通しです」
「なるほどな……。こうやって誤認逮捕が生まれる訳か。無能なキャリアによって」
「無能……」
さすがにその言葉は頭にきたのか、本城のこめかみに青筋が走り、ピクピク痙攣しはじめる。
が、
「そうです! わかりました!」
そこで声を荒げたのは、来夢だった。
「来夢ちゃん?」
「どうしました」
「……」
「あの時──柚葉さんを脅していた男の人、誰かわかりました!」
突然ではあるが、ピンときてしまった。
柚葉の後を尾け、大会議室のテーブルの下に隠れていた時のことを。
「え? いま!?」
蒼士がツッコムがいまだから分かったのだ。
言い争いをする司と本城を見ていたら、怒る男性が思い浮かび、あの時の声と一致したのだ。
それは一度、怒る姿を見せていた人物。
柚葉を脅していたのは──。
「中田さんです!」
来夢は言うと、司の腕を取って走り出していた。