ということは、この二人が犯人なのだろうか。それとも、どちらか一方が犯人でもう一方は関係者なのか。

正直、そうであっては欲しくないという気持ちが芽生えていた。

なぜなら、


「盗み聞きの得意な地獄耳妖怪さんがいれば別ですけどね」


そのおっとり口調は何度も聞いた声。蒼士の上司でさっき男性に脅されていたはずの女性のものだったから。


「そんな妖怪がいるなら協力してもらうわ」


「あら、それはダメよ。あなたをここに呼んだのは、もうおしまいにしましょうって言う為だったんですから」


「お終いって、止められないのはあなたが一番よくわかっているはずでしょ柚葉」


「でも、止めなくちゃ……。このままでは私もあなたもタダでは済まないわ。もう子供ではないのよ」


「柚葉はなにもしていないでしょ。柚葉はただ、私の犯行を知ってはいたけど、止められなかっただけ。昔からの親友だから」


「響子……」


「柚葉には感謝している。だから……、もう迷惑はかけない」


「どうするつもり?」


「仕事を辞めるわ。そして柚葉の知らないどこかで、止められない盗みをし続ける」


「そんなのダメよ」


「ならどうしろって言うのよ! 何度も話したでしょ。どうやっても自分を止められないの。いくら我慢しようとしても気付いたら物を盗むことで頭がいっぱいになっているの。別に欲しくなんてないのに勝手に手が動いているの」


「そうだけど──」


「ならどうして止めるのよ! あいつ!? やっぱりあいつが原因なの!?」


口調を荒げガタンと、立ち上がる音がする。が、悟ったようにすぐに落ち着いた声音に変わった。


「分かったわ……。ありがとう柚葉。あなたには感謝しているわ。誰も信じてくれない私のいうことを信じてくれて嬉しかった。だけど、もう私には関わらないで──さようなら」


「あ、響子!」


走り去る二つの足音。すぐに続くドアの開閉音。

急に静まりかえる更衣室。


来夢は、そっとロッカーを開けると、ベンチにペタンと座り込んだ。

話を聞いた限り、一番懸念していたものは払拭された。
柚葉は犯人ではなかった。
だが、犯人を知っていて隠していたという事実も浮上してしまった。
そして、響子という女性の口振りから、彼女はきっとあやかしなごりの持ち主ではないのだろうか? とも思った。

物を盗むあやかしのなごりだ。
今回の事件と完全に一致する。

来夢に、なんとも言えない気持ちがこみ上げてくる。
悲しいような、やるせないような気持ち。
同じなごり持ちとして、自分ではどうしようも出来ないもどかしさが痛いほどにわかるから。

(でも……)

だからこそ、解決しようとも思う。
幸運のぬいぐるみと司がいれば、なごりはなんとかできるかもしれない。
それに犯罪は犯罪として償わなくては本人がスッキリしないだろう。
なごりは自分のせいではないが、人間そんなに簡単に割り切れるものではないはずだから。

来夢は、


「よ~し」


自分の、気持ちを入れ替えるように声を出して立ち上がった。