先ほどの件も怖いから無理だと言えば断ることはできたはず。
司とて上から目線だが、無理強いまではしないだろうことは、短い付き合いながらわかる。

結局来夢は、


「危ない時は助けてくださいよ」


と、心では葛藤しながらも了承する。

自分も持っているあやかしなごりに対する興味も相まっているから恐怖に打ち勝ってしまうのか? そもそも自分はここまで大胆な性格だっただろうか? いろいろと疑問は尽きないが、足は動き出してしまう。


「危険はない。が、万が一の時は助けてやるから安心しろ」


「来夢ちゃんファイト!」


二人の声を背に、来夢は更衣室のドアを開けると、真っ直ぐ進み右に並んだロッカーの奥から二番目を開けた。

足下まである細長いロッカーで、確かにほんの少し背を丸めれば自分ひとりはすっぽりと入れる大きさだった。
中に入って扉を閉めると、外から見られる心配はないが真っ暗で少し心細い。


「そうだ」


気を紛らわす意味もあり、先日聞いておいた司のアドレスへメールを送る。


【準備完了です】


するとすぐに返信がくる。


【こちらは外で隠れて待機している】


ついでにいくつか質問もしてみることにする。


【ここに誰が来るんですか?】


会話を聞くということは、少なくとも相手は二人はいるはずだ。
しかも女子更衣室なだけに女性のはずである。
いったい誰がくるのか。

すると、


【犯人】


しれっと、とんでもない返信がきた。

ガツン、と上を向いた拍子に思わず天井に頭をぶつけながらも抗議の文字を打っていると、


【来たぞ】


のメールとほぼ同時に扉が開く音が響いた。

緊張と共に、司への怒りがこみ上げてくる。
(ぜっっっったいに、後でおいしい物をごちそうしてもらいますからね)
それでいいのか? と小馬鹿にしたような司のツッコミが目に浮かぶが、それ以外思いつかない来夢は好きな食べ物を色々と思い浮かべなんとか心を落ち着かせる。

ロッカーの反対側の壁に並んでいたベンチに腰掛ける音がする。

わりと近い場所に座ってくれたらしい。
これなら声がすれば簡単に聞き取れるであろう。が、それはこちらの存在も気付かれやすいということに他ならない。

来夢は息を殺して、本日二度目となる聞き耳を立てた。


「ここなら誰にも聞かれる心配はないわ」


「そうね……」


声は二人。