「なんでしたかねえ……」
それでも根気よく思い出そうとしていると、
「おい」
誰かが声をかけてきた。
「ちょっといいか」
年齢は25歳ぐらいだろうか。高身長、黒髪の目つきの鋭いイケメン男性だった。
「わたし……ですか?」
「目が合っているのはお前だろ。ちょっとつき合え」
男性はそれだけ言うと、有無も言わさず来夢の腕を掴み歩きはじめた。
裏路地へ入り、ズンズンと進んでいく。
普通の女の子ならここで、危機感を覚えるところなのだろうが、【洗い癖】のせいか、物怖じしない性格に育った来夢は、
「あの、つかぬことをお聞ききしますが、あなたは変態さんですか」
と、ドストレートに疑問をぶつけた。
「……俺は神代司(かみしろつかさ)。お前に用がある。変態ではない」
「で、でも、司さん。突然道ばたで、見も知らぬ女の子を強引に連れ去ろうとするのは、常識的に変態さんだと思うのですが」
「お前、名前は?」
「来夢です、けど……」
「そうか来夢。安心しろ。俺はガキに興味はない」
「高校生はガキじゃありませんよ! 失礼です人攫いさん!」
「人攫いでもない」
「なら、わたしをどこへ連れて行くんですか」
「すぐそこだ」
「でも、わたしこの後用事があるんです」
「なんの用事だ」
「そ、それは……思い出せないと言うか、思いだそうとしているところなのですが……」
「なら、思い出すまで付き合えばいい」
「で、ですから、どこへ──」
「ここだ」