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「ここです」


廊下をしばらく進むと、大会議室と書かれた扉の前で来夢は歩みを止めていた。

柚葉を連れ出した相手は視認出来なかったが、柚葉の背中が入っていくのを辛うじて確認していた。

状況はまるで分からないが、入る直前、柚葉はやはり嫌がっているように見えた。
来夢の目には強引に連れ込まれたように見えたのだ。
いったい中でなにが起こっているのか。


と、ゆっくりと扉が動きはじめた。
後からやってきた司だ。司が慎重に薄くドアを開けたのだ。
蒼士は黙ってその後ろに控えている。
まだ口をモグモグさせているのは、弁当を手に持ったままだからだが、ひとまずそれは置いておく。


細い隙間から見ると、中は長方形の長い机がズラリと列を作っている広い部屋だった。
最奥に大きな黒板があり、その辺りから言い争うような声がかすかに聞こえてくる。
おそらくひとりは柚葉だが、もうひとりはうまく聞き取れない。
死角になっていて姿もここからでは見ることが出来ない。


「来夢」


「は、はい」


「忍び込んで、あいつらの話を盗み聞きしてきてくれ」


司は事も無げに言うと、来夢が通れるギリギリまでさらに扉を開ける。


「ちょ、ちょっと待ってください。忍びこむなんて」


「この三人の中ではお前が一番小柄だ。適任だろう」


「見つかったらどうするんですか!」


「忍ぶんだから見つからないだろう」


「どんな理屈ですかっ!」


と、言ってはみたものの、これ以上抗議しても俺様体質の司は聞く耳を持たないだろう。

それに、来夢自身捜査をしていないとも思っていたところだし柚葉のことも気になった。
温厚で人と言い争うイメージの湧かない柚葉が、なぜ突然こんな状況になっているのか。相手が怖い人だったら危険ではないのか?
考えれば考えるほど気になる。

だから、


「バレても知らないですよ」


言い捨てると机の下へ潜り、四つん這いでその先の机へと移動していく。

机の下にはさらにイスが置かれているが、真ん中が空洞タイプのもので、来夢なら通り抜けられる細さだった。


音を立てないように慎重に奥へと進んでいくと、部屋の隅に二人分の足が見えた。
ひとりは女性。もうひとりは大きさから男性だろうと推測できた。

声もだいぶクリアに聞こえる。


来夢は机三つを挟んだ地点で止まると、耳をすました。