初対面時も最初は不審者かと思ったぐらいだ。

来夢は考えたが、ここは自分が動くしかない。そう結論付けた。
まあ、あやかしなごりだと聞いて警察署へ付いてきたはいいが、実際まだなにもしていないのでなにかしたかったというのが理由ではあるが。

幸いなことに、最後の盗難現場は警察捜査済みの女子更衣室だ。通常状態のそこへは男性である司は入れないだろうから、丁度よくもあった。

その話をすると柚葉は、


「では、お昼ご飯の後に私が案内しますね」


と、快諾してくれた。

そこへ、会議室の扉が開き、大きめの四角いリュックを背負った女性が顔を出す。


「お待たせしました」


「あら、丁度いいわね。お昼にしましょう」


柚葉が頼んでくれていた昼食が届いたようで、デリバリーの女性がリュックからお弁当をだしていく。


「いつもありがとう」


「いいえ、こちらこそ」


「まだ、配達はあるの?」


「一度戻って、今度は3階に」


「そう、がんばってね」


「はい」


女性は愛想よく答えると、元気よく帰っていった。

ドアが閉まる直前、


「ちょっといいかな」


入れ違いに、誰かがドア付近にいた柚葉にだけ聞こえるように小声で話しかけた。

その直後、


「……ですが」


「いいから来るんだ!」


渋る柚葉の手を強引に取って連れ出していく。

来夢と蒼士はすでに弁当に目を移していて、


「おいしそうです」


「わあ、からあげだ」


ことの成り行きにまったく気づいていなかった。

が、いつのまにか手を止めていた司だけは柚葉が消えた扉を静かに見つめていた。


「おまえたち、飯は後だ」


「食べないんですか!」


「づがざ?」


来夢と、すでにからあげを口に放り込んでいた蒼士はキョトンとするが、司が入口へ向かうと、その後に続く。


「いったいどうしたんですか? あれ? そういえば柚葉さんは?」


「あそこだ」


ドアから顔を出すと、柚葉は誰かに腕を引かれ、廊下の奥を曲がるところだった。


「誰かに引っ張られてました?」


「強引にな」


「無理矢理連れていかれたんですか!」


「そのようだな」


「そのようだなって! 大丈夫なんですか?」


「どうかな」


「相手の方は?」


「知らん」


「ええっ!?」


ここは警察署内。そして警官の柚葉がなにか危険に巻き込まれたと思うのはおそらく早とちりだろう。

だが、わざわざそれを伝えた司の態度が気になった来夢は、


「追いかけるんですよね」


一応確認しつつも、返事を待たずにすぐに背中を追いはじめた。
もしかしたら事件と関係があるのかもしれないと直感しながら。


「っ……待って、ゴホゴホ」


からあげを喉に詰まらせながら危機感ゼロの蒼士も後に続く。


「さて……どうなる」


司は一人ごちると、最後にゆっくりと歩き始めた。