「お呼び立てしたのはこちらなのに、すみません」 


会議室へ戻ると、追いかけるようにやってきた柚葉が頭を下げてきた。
本城警視から話を聞いて急いで来たらしく、だいぶ困り顔だった。


「本城さんって、やっぱり偉い人なんですか?」


「浅草署の副署長です」


「副署長さん!?」


「学校なら教頭先生ですね。普段なにをしているのかは分かりませんが、とにかく存在している微妙役職です」


その例えが適当かどうかは別として、柚葉は続ける。


「若いですが彼はトップクラスのキャリアなので、本来署へ配属されることもないのですが、本庁の本部ポストのイス待ちで、その間たまたま空きができたここの副署長になったという噂です」


「繋ぎで副署長ってすごいよね」


「関心している場合じゃないですよ、蒼士さん! その偉い人と司さん、ケンカしてしまったんですから」


「そう言えばそうだった」


「大丈夫なのですか、神代さん。土下座なんて浮気をした旦那さんが奥さんに半べそをかいてすることですよ」


みんなの視線が集まるが、当の本人はどこ吹く風で作りかけのぬいぐみに、糸を通していた。


「司さん、聞いてます?」


「……ん?」


「事件の話ですよ。解決できるんですか」


「ああ……」


さらには気のない返事。

ぬいぐるみ作りに真剣すぎてほとんど耳には入らない様子だ。


「来夢ちゃん。司はね、幸運のぬいぐるみを作る時は尋常じゃなく集中しちゃうから、手が止まるまで話しかけても無理だよ」


蒼士に言われ、来夢も思い出す。

つい先日店に行った時も、目の前にいることにしばらく気づいて貰えなかったことを。


「いいんですかね。いまはそれどころじゃないと思うんですけど」


「大丈夫だよ。司は昔からこんな感じだから」


「大変な時でも、ぬいぐるみに夢中になってしまうんですか?」


「そう。だけど、いつも最後はビシッと決めてくれるから」


付き合いの長い蒼士が言うのなら……と思う反面、出会ったばかりだが、司は行き当たりばったりな気もする。