「本城警視!」
蒼士が珍しく畏まった態度でお辞儀をするところを見ると偉い人なのだろう。敬礼までしている。
しかし、本城はそれをスルーして尚も来夢に話しかける。
「この世界にあやかしなんてあやふやな存在は、いるはずもない子供だましの迷信なのに、署内での紛失騒動を妖怪事件だなんてどうかしていると思わないですか」
「え、えーと……」
返事に困る、というよりは肩を掴まれ不自然なぐらい間近に顔を寄せられ困っていると、
「はうっ!?」
グイッと袖を引かれ後ろへ引っ張られた。
怖がっているのを悟ったのか、司が離れさせてくれたのだ。
しかも入れ替わるように前に立ってくれた。
「んん? 君はみない顔だが誰です?」
「神代司。人形屋だ」
「人形屋……? どうしてショップ店員がこんなところに?」
「あの、それは僕が署内で起きている盗難事件の捜査協力を要請しまして」
蒼士が間に入ろうとするが、本城は値踏みするように司の全身に視線を這わせていく。
これも来夢同様、至近距離で……。
「捜査協力を依頼? ……なるほど、君が怪異事件だと触れ回っている件ですね。そこへ怪奇サークルのお仲間を呼んだという訳ですか、お人形屋さんの。──まあ、大人になっても不思議が大好きなのは個人の自由です。お人形遊びでも、宇宙人捜しでもしたらいい。ですが、遊びは余所でやってほしいものですね。ここは全うな大人の集う警察署なのですからね」
小馬鹿にしたようなその物言いに、来夢は内心ムクれるが、すぐにそれどころではなくなる。
「簡単な事件だが、その全うな警察では無理そうなので謎解きにきたんだがな。ただの人形屋が」
表情にこそださないが、司がさらにムクれていたから……。
「ほう……。報告では証拠も目撃者も上がっていない難事件と聞いていますが、それを素人の君が解決すると?」
「そういうことだ」
「警察より君は優秀だと?」
「少なくとも今回の件に関してはな」
挑発的な司に、本城は一瞬眉をピクリとさせ怒るかと思いきや、
「いいでしょう。では、やっていただきましょう。本当は柚葉くんの報告を受けて止めにきたのですが、そんなに自信があるなら許可しよう。──ただし」
最後の部分で人差し指を立てて不適に微笑んだ。
「解決出来なかった時は、警察を愚弄した罰として署員全員に土下座をしてもらいます」
「そんな!」
「け、警視!」
その理不尽な条件に、来夢と蒼士は意義の声を上げるが、
「いいだろう」
司は即答し、
「俺が事件を解決したら、本城警視には人形屋を見下した罪滅ぼしに一日店で売り子をしてもらおう」
当然とばかりに張り合うのだった。