次に訪れたのは5階、刑事課。
盗難事件が起こったと説明された三カ所の内のひとつだ。
中では三人の強面男性が、机に向かっている。
「ちょっと待ってて」
入り口でそう言われ、来夢と司が室内へ入った蒼士を見守っていると、ついさっき見た光景が再び繰り返されていた。
「すみません。署内での盗難──紛失事件についてお話をお聞きしたいんですけど」
「それはもう話しただろう」
「なんでまた来た。二度も聞く必要なんてないだろが」
「忙しいんだ。帰れ!」
「あれ~、また怒られちゃった」
ポリポリと頭をかきながら部屋を出てくる蒼士に、司がよくやるジト目を向ける。
「蒼士。お前、なにかやらかしたのか」
「いや、別になにも」
「一階にいた中田という警官もここの連中も、いくらアホだとしてもお前に対して当たりがキツく見えるのだが、気のせいではないだろう」
「う~ん……。現場確認と状況確認で一昨日話を聞きにはいったけど、その時にちゃんとこれは【怪異事件】だって説明したんだけどな」
「それだな」
「それですね」
「へ? なにが」
蒼士はポカンとしているが、司が言わんとしていることが来夢にもすぐにわかった。
「蒼士さん。普通の人は妖怪とかあやかしのなごりだとか、簡単には信じてくれませんよ」
「ちゃんと力説したんだけどな」
「だからそれが原因だ、アホゥ。怪異なんて素直に信じるのは、それを直に経験した人間かお前のようによほどの物好きだけだ。それがリアルに事件を解決しなきゃならない警察なら尚更、蒼士のようなヤツはイカレてると思われるだろうな」
「……イカレテル?」
イカレているとまでは思わないが、来夢も不思議な体質を信じて貰えないというのは身にしみているので、頷いておく。
すると、
「その通りです」
「キャッ!」
急に真後ろから声がして来夢は小さく飛び跳ねた。
振り返るとすぐ目の前に、二十代後半ぐらいでやたら歯の白い銀縁眼鏡にスーツの男性が立っていた。