不思議案件。

実際にそんなものは警察にはない。
だが、今回の盗難事件の担当となった藤田蒼士は「これこそ望んでいた事件だ」と瞳をキラキラと輝かせていた。

幼い頃からUFOやUMA、都市伝説に妖怪と様々な不思議に興味があった蒼士は、大学で神代司という人物に出会ったことで奇妙なことは現実に起こり得ると心から確信し、さらにのめり込むようになった。

あやかしの力を受け継いで、それに翻弄されている人たちが実在していたからだ。
司と行動することで、蒼士自身何度も目にしたことがある。


【あやかしなごり】それは不思議以外のなにものでもない。
警察官になったのも、実はそんな不思議事件はもっとたくさんあるのではないか。そう思ったことがきっかけだったりする。


「絶対に今回はあやかしなごりだよね」


廊下を軽やかに歩きながら、蒼士は後ろを振り返った。
声をかけられた、あやかしなごりを持つという高校生の来夢は、


「あやしいです」


と素直に答えてくれる。


しかし、


「言い切るのは早いがな」


その隣を歩く司は曖昧に言葉を吐く。


「どうしてそんなに疑り深いかな」


「お前がこれまで持ってきた話で正解はひとつもなかったからだ。大学時代そのせいで何度迷惑に巻き込まれたことか」


「そうだったっけ」


と言ってはみたものの、まあ心当たりはなくはなかった。

大学生時代、バイト帰りの深夜。迷子を見つけて送っていく途中、その子と一緒に迷子になったことがあった。
夜中にうろつく子供。そして自分までなぜか迷子になるのは怪しいと思い、妖怪に誑かされているからだと司を呼び出したことがある。
結果的にその子は本当にたんなる迷子だった。
夜の仕事をしている母親の出勤時、出がけを追いかけて途中で見失ってしまった子供だったのだ。
自分自身が迷子になったのも、もともと方向音痴だったせいな気がしないでもない。
その後、その子供に捜索願が出され誘拐犯扱いされて大変な目にあったことがある。

それ以外にも大学時代には少々勘違い的行動のせいで司を巻き込んだことが二度三度……、十回はあったかもしれない。


「でも、今度は間違いないよ」


「だといいがな」


三人はエレーベーターへ乗り込むと一階を押した。
司が一応調べる気になってくれたので、聞き込みをするためだ。


それ以外に五階の刑事課と三階の更衣室でも被害はあったので後で行く予定だが、最初は唯一映像の残っていた一階を調査することになった。

柚葉は別件の仕事があるため後で合流することになっている。

一階へ降りると、まずは受付へ向かう。