「蒼士くん、いつも言っているでしょう。君はおっちょこちょいすぎるって。説明を忘れるなんてダメよ」


「司は昔からの友だちだから、説明は後でもいいかなと思ったんだけど」


「仲が良くても、そうは問屋が卸さないのよ。気をつけなさい」


一応上司として叱っているのか、柚葉が蒼士にダメだしをするが、まるで幼稚園児と先生だった。


「この部下にしてこの上司か……」


「柚葉さんて、面白い言い回ししますね」


司は呆れ、来夢は楽しそうに二人のやり取りを見ていると、ほどなくして本題、なぜここへ呼び出されたのかの話になった。


「では、お説教はこのぐらいにして、本題に入りましょう」


「はい」


柚葉に促されやっと蒼士が説明に入る。


「実は司に頼みたかったのは、盗難事件の捜査なんだ」


「盗難? 完全に警察の仕事だが」


「普通ならそうなんだけど、これはちょっと特殊なんだ。普通ではありえないというか不思議案件なんだ」


「不思議案件? って、もしかしてあやかしなごりですか」


「そうなんだよ来夢ちゃん! やっぱり君も誘ってよかったよ。話がわかる!」


「まだ、そうと決まった訳ではないがな」


「司……。そんなに怖い顔しないでよ。これを聞いたら驚くから」


「なんだ」


「その盗難なんだけどね。実は……」


蒼士はぐっと顔を二人に寄せると、目一杯タメてから言い放った。


「ここ、浅草警察署の内部で起こっているんだ! しかも複数件!」


「警察で泥棒!?」


来夢はまんまと驚くが、司はだからどうしたと言わんばかりにジト目を向ける。


「あれ? 司。驚かないの?」


「なぜ驚く」


「へっ!? だって警察署だよ! 町で一番警官がいる場所だよ! 正義の砦だよ。そんなジャスティスアイがあちこちで光っているところにただの泥棒が入る?」


「ないとは言い切れないだろう。警官の制服や手帳はマニアの間では高値で取引されるらしいからな」


「へえ、そうなんだ──って、ちょっと司、なんで立ってるの」


「帰る」


「なんでーっ!」


「お待ちください」


蒼士が慌てるなか、入口へ向かおうとした司を制止したのは、


「ここからが本題です」


柚葉だった。
柚葉は司を席へ戻らせると、蒼士の代わりに話始めた。


「神代さんのおっしゃる通り、警察署や消防署などへ入る図太い窃盗犯も稀にですが存在します。ですので通常の盗難も含めてすでに捜査を初めております。ですが、今回に限っては不可思議という他のない状況でして」


ここまで言うと、胸元から携帯電話を取り出し、


「防犯カメラの映像です」


と動画を流しはじめた。


画面には先ほど通ってきた一階の受付と、その奥に広がる制服姿の警官が事務仕事をしている机の列が映し出されていた。
が、


「あれ? 消えちゃいました」


それが何故か、画面が真っ暗になり映像が途切れる。


「壊れてます?」


「いいえ。ここからです」


柚葉の言う通り、映像はすぐに再開された。
だが、元に戻ったカメラの中では、受付の女性や奥の警官何人もがなにかを探すような動きをはじめる。
机の上や床を見て、回りをうろうろとしている。


「お分かり頂けましたか」


「もしかして、あの暗くなった一瞬で物がなくなったってことですか」


「しかも、一斉にです」


画面が暗くなったのはせいぜい10秒というところだろう。
そんな短時間で離れた位置にいる4、5人の持ち物が一度になくなるというのは、確かにおかしな話だった。


「……なるほどな」


司は諦め顔で頷くと、


「ほらね。これは絶対司案件でしょ」


と、得意げに親指を立てる蒼士をひと睨みし、重い腰を上げるのだった。