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「なんだかドキドキしますね」
「ムカムカの間違いだろう」
ワクワク顔の来夢と仏頂面の司。
二人の前には、年期の入った6階立ての建物がそびえている。
入口には昇る朝日と日射しを象った旭日章が描かれ、その隣には浅草警察署の文字が太陽光を反射していた。
司は「ハアー……」とため息をつくと、内部へと歩を進めた。
「わたし初めて来ました。結構広いんですね」
中を物珍しそうにキョロキョロと見回す来夢を背に、受付の女性へ声をかける。
「生活安全課の藤原蒼士(ふじわらそうし)というアホ──いや、警官に呼ばれてきたのだが」
女性は司の整った顔に一瞬見とれた後、
「──しょ、少々お待ちください」
すぐに我に返りパソコンのキーボードへ指を走らせる。
と、
「蒼士くんの知り合いの方ですか?」
そこへ、通りがかったスーツ姿の女性が声をかけてきた。
肩までのサラサラな黒髪と司顔負けの整った目鼻立ちを持った同姓の来夢も思わず息を飲むほどの美人だった。
司はと言えば、
「蒼士に呼ばれてきた。神代司だ」
相変わらずの平常運転──いや、それどころか、
「いいや……、人畜無害な一般人だが、横暴な警官、藤原蒼士に無理矢理呼びつけられた神代司だ」
わざわざ嫌みたっぷりに言い直していた。
「ちょ、ちょっと、司さん」
どうみても八つ当たりだと来夢は慌てるが、
「そうでしたか」
女性は表情ひとつ変えず、
「それは、うちの者が失礼をしたようで申し訳ありません。ひとまずは私がご案内いたします」
と対応する。
「こちらへどうぞ」
エレベーターで四階まで移動し、第二会議室と書かれた学校の教室の半分ほどの小部屋へ案内すると、
「こちらで少々お待ちください」
女性は部屋を後にした。
「綺麗なひとでしたね」
「そうか」
手近なイスに座りしばらく待っていると、
「お待たせ致しました」
「ごめん司、来る時間を一時間間違えてた!」
先ほどの美人女性が蒼士を伴ってやってきた。
二人は司たちと向かい合って腰掛けると、女性がまず口を開いた。
「私はこの子──藤原蒼士の上司で土御門柚葉(つちみかどゆずは)と申します」
「神代司だ」
「北条来夢です」
「土御門とは珍しい名前だな」
「よく言われます。呼びにくいと思いますので、柚葉と呼んで下さい」
「……わかった」
一瞬間を置いた司が何かを言いかけたように
来夢には見えたが、それは次の柚葉の言葉ですぐに忘れてしまう。
「蒼士くんから話を聞きましたが、お二人は捜査協力をしてくださるそうでありがとうございます」
柚葉は軽く頭を下げるが、
「……そういうことか」
「捜査協力? そうなのですか?」
司と来夢の反応を見て、すぐに事情を察したらしく今度は申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ありません。説明もなしに呼び出されたのですね。神代さんがご機嫌ナナメなのも納得いたしました」
そう、二人は理由も教えられずとにかく署に来てくれと言われただけなのであった。