その後、ひとしきり話をしてやよいは帰って行った。
去り際には「また、がんばって恋愛しよう!」と元気ですらあった。
が、
「まだ、帰らないのか」
来夢はムスッっとしたまま残り続けていた。
「帰らないもなにも、最初にこのお店に誘ったのは司さんですよ」
「そう言えば、そうだったな」
「わたしにもその幸運のぬいぐるみをくれるんですか」
司が作りかけていたテーブル上の半ぬいぐるみを指さす。
「そのつもりだったんだがな……」
「だが、なんですか?」
「思ったよりも、来夢は奥が深そうなんでな」
「奥ってなんですか」
そう言った来夢ではあったが、なんとなく意味は察していた。
なぜなら……。
「やっぱり……もしかして、これもなごりなのですか!」
なぜなら、来夢は司の脛をなぜかスリスリとしていたから。
「すねこすり、だな。本来、人の脛にまとわりつくだけの、あずき洗い同様ほぼ無害なあやかしだ」
「すねこすり! 名前はかわいいですけど……──ですけど、これはわたしには有害です!」
言いながら、手や頬で司の脛をこれでもかとスリスリスリスリと触りまくっていく。
「トリガーは不明だが、どうやら俺の脛が大層気に入ったということだろう」
「そんなの気に入ってないです! 冷静に説明はいいので、なんとかしてください!」
そこへ。
カラン、と店の扉が開かれた。
入ってきたのは、一人の男性。
背は低く可愛らしい容姿で、目つきの鋭い司とは間逆タイプの中性的なイケメンだった。
男性はツカツカと店内を進み司の正面まで来ると、上着のポケットから写真入りの警察手帳を取り出す。
「え!? 警察?」
そして、いまいち状況がつかめない来夢を後目に、手錠を取り出した男性は真剣な表情で言い放つのだった。
「神代司! 連続殺人の容疑で逮捕する」
「殺人! ──痛っ!」
思わず、床にいた来夢はテーブルに頭をぶつけ、
「……蒼士(そうし)」
手錠をかけられた司は静かに男性の名前を呟くのだった。