「なに? 呼び捨てにしたらダメ?」


「かまわないが、やよい。おまえは最初に聞いていたのとはだいぶ印象が違うがどうなっている」


陽葵の説明では、隣のクラスの小さくて女の子らしい子だったはずだと司は指摘する。


「そんなの、ほとんど話したこともない相手の印象なんて勝手なイメージでしょ。来夢のことで私も気づいたけど、洗い物のことで学校では悪く言われてるけど本当はいい子じゃない──それより、私のことも呼び捨てで呼んでいいわよ」


「やよい、ではないのか」


「弥生ひかり。やよいは苗字」


「なるほどな……」


「なにがなるほどなんですか?」


司は妙に納得するが、来夢にはなにがなるほどなのか見当もつかなかった。


「確か、結城智也もやよいと呼んでいたな。それは、二人はそこまで親しくはなかったということだろう」


「そうよ。だって、ショッピングモールに一緒にいた時だって、私がストーカーの正体を教えるって呼び出したんだもん。そこにたまたま石田陽葵がやってきただけ」


「わたしはてっきり結城くんとやよいさんってもうつき合ってるのかと思ってました」


「告白したけど、ストーカーのせいでなかなか返事がもらえなかっただけの仲だよ。石田さんが告白した後、結局二人はつき合うことになったから見事にフラれたんだけどね」


「そうだったんですね……」


「結果はさておき、視点を変えれば事実は異なってみえるものだ」


「それって、わたしの洗い癖を見て、結城くんが陽葵ちゃんのストーカーにはなにかあるかもって気づいたってことと同じですね」


「それなんだけど」


ここで、やよいが改まったように急に姿勢を正した。


「あやかしのなごりって本当なの? 来夢からは聞いてはいるんだけど、司からも聞きたくて……来夢が嘘を言ってるようには思えないんだけど、なんというか簡単に信じられないというか……」


「それが普通の反応だ。自分が経験していないものを理解しろと言っても難しいものだ。だから俺には──真実だ、としか言いようはない」


「やっぱり……、不思議なことってあるんだね」


「陽葵は【べとべとさん】。来夢は【あずき洗い】のなごりもちだ」


「えっ!? ……ええーっ!? わたしってあずき洗いだったんですか!」


サラッと言われた初めてきく事実に来夢は驚くが、


「洗うといえば、だいたいそう思うんじゃない?」


「見当もつけてなかったのか……」


二人は残念な子を見る目。