「え、えええ!?」


木の陰へ戻りかけていた来夢が、驚きの声をあげる。


「つ、司さん、大変です!」


「どうした」


「こ、こんな時に……」


「なんだ」


「こんな時なのに──洗い物がしたいですうぅー!」


我慢しようとしているのか、身悶えする来夢。


しかし司は、


「そうか」


と言っただけで、別段なにをするわけでもなく、その後は無言……。


「ま、まずいです! はやくも我慢が……洗い物が……ああ、無理ですー!」


来夢はスイッチが入ったように走り出していた。

陽葵の横をすり抜け、帰りかけている智也も通り越し、その先に見える水道へと。


「ああああ! 洗いたいですー!」


「来夢!?」


「?」


しんみりとした二人を背に、来夢は水道へ滑り込むと、しゃがんで勢いよく蛇口を捻った。

サーッと流れ出る透明な水に落ちていた石ころを浸し、手で土埃をゴシゴシ落としていく。


「あー……、気持ちいいです」


欲望が満たされ次第に気持ちがほっこりしていくと、


「北条……?」


智也が真後ろまで来ていた。