陽葵はそちらに意識を向けていて三人のやり取りには気づいていない。


やよいも、もちろん来夢たちもそちらへ視線を移した。


「……智也」


そう呼びかけられた相手、智也は急いできたのか肩で息をしながら陽葵の前で足を止めた。


「くるの早かったね」


「当たり前だろ。あんなことがあって、あれから電話してもでないし──いったいなにがどうなってるんだ」


あんなこととは、ストーカーだとやよいにバラされたことだろう。
ひとごとだとは思えない来夢の手にも自然と力が入る。


「ちゃんと説明する」


言いながらも、陽葵は大きく深呼吸すると、いきなり切り出した。


「私……一年前に出会ってから……ずっと、智也が好き」


「っ!?」


その突然の告白に、一瞬驚きの表情を見せるが、次の瞬間には智也の顔は怒りに満ちていた。


「……意味がわからない。じゃあ、なんで、あんなストーカーなんて真似したんだ! 男だって、ずっと誰かにつけ回されたり見張られたりすれば、怖いにきまってるだろ! ずっと仲のいい友達だと思ってたのに……」


「ともだち……」


今度は、陽葵の表情が曇り始めた。


「そうだよね。【友達】だもんね……。友達にそんなことされて嬉しい人なんていないよね!」


「は? なんで陽葵が怒るんだよ! 怒ってるのはこっちだろ!」


「勇気だして告白した相手に友達なんて言われたら誰だってそうなるよ!」


「ストーカーさえしてなければな! した時点でこっちは意味わからないんだから仕方ないだろ!」


「私だってなりたくてストーカーになったんじゃない! 好きだから……好き過ぎて、気づいたら後をつけてて……」


「本当に好きなら相手のイヤがることなんてしないだろ」


「何度も止めようと思った。智也にどう思われるか考えたらすぐにやめたかったよ! でも……、でも、自分ではとめられないの! どうしようもなかったの!」


「自分でやってることなのに、自分で止められないって。なんだよそれ」


智也はもう一度「なんだよ……」と吐き捨てると、陽葵に背中を向けた。


「もういいよ。本当は、ここに来るまでは、陽葵がストーカーだなんて半信半疑だった。ウソだと思いたかった。けど、全然否定しないんだもんな……」


「とも、や?」


「残念だよ」


怒鳴って怒りは抜けきったのか、智也は肩を落とすと、ゆっくりと歩き始めた。


「やだ……、まって、智也。本当なの。本当に自分ではストーカーをやめられないの! 信じて!」


陽葵は腕を取って必死に追いすがるが、


「ごめん」


智也は、それを強引にふりほどいた。