──十分後。


「ありがとうございました。あと、ごめんなさい」


少女は、スッキリとした顔で頭を下げていた。


なにがしたかったのか? 調理長は見当がつかず「は、はあ……」としか答えようがなかった。

彼女の言葉をそのまま受け取れば、単純に洗い物がしたかったのだろう。店にも実害はない。だが、だからと言って日曜の昼にたまたま通りかかったお店へ乗り込んでまで洗い物がしたい人がいるのか? そう聞かれれば、そんな人はいないだろうと言うほかはない。
まったくの理解不能であった。

少女は律儀に店員全員に頭を下げると、満足顔で店を後にした。
 

しばらくの間この店では、謎の皿洗い少女の話題でもちきりだったが、一週間後にはほとんど忘れ去られていた。