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「そ~っと、そ~っとですよ……」
「──おい」
「いいですか~。近づき過ぎたらバレちゃいますし、だからと言って離れすぎても見失っちゃいます。大事なのは絶妙な距離感。それをたもつには……抜き足差し足忍び足です!」
「おい、来夢!」
「はっ! なんでしょう、司さん」
日中の人で賑わう繁華街。
そんなところでこの二人がなにをやっているのかと言えば、
「少し黙って歩け」
「あ……、すみません。わたし、尾行なんて初めてなので緊張してしまって」
である。
あの後、店の奥から上着を羽織った司が戻り、陽葵の後をつけるというので来夢もついてきたのだ。
「陽葵ちゃん、大丈夫でしょうか……」
おそらく、陽葵はこの後智也に会う。人形店を出る時の決意の表情や繁華街へ入る前、誰かに電話をかけていたことからも間違いないだろう。
だが、どう説明するつもりなのだろうか。ということが来夢には気になっていた。
来夢とて、これまで【洗い物がしたい!】という押さえられない症状をクラスメイトや教師に何度も説明してきたが、おかしな子扱いされるか可哀想な子扱いされるのがほとんどだった。非道いときなんかは、
『は? なにいってんの? もしかしてバカにしてる?』
だとか、
『まじめに答えなさい!』
と、怒られてきたのだ。
そんな自分を、
『へ~、そうなんだ。不思議なこともあるもんだね』
と、邪気なく受け入れてくれた稀少な友達の陽葵が同じ目に合う。いいや、好きな相手から否定なんかされればダメージは何倍も大きいはず。
そんなマイナス思考が過ぎると気が気ではなくなってくる。