「気に入った人間の後をつけるだけのあやかしだ。おそらくは初めて本気で人を好きになったことにより、血が力を呼び覚ましたんだろう」


「お母さんもそう言ってました」


司の言葉に陽葵は安心したように頷く。


「それで、司さんなら助けてくれるって教えてもらったんです。お母さんも昔助けてもらったって」


「なら、話は簡単だ。これを持って行け」


司は、来夢がここへ来てからずっと持っていたブサイクなぬいぐるみを陽葵へ投げ渡した。


「これは?」


「幸運のお守りだ。ぬいぐるみに祈れば、少しだけ運が味方をしてくれる」


「運ですか……」


「小さな運だが、その運を生かすも殺すも陽葵、お前次第だ。母親はその運をうまく味方につけたから、父親と結ばれたのだろう」


「そう言えば、陽葵ちゃんのお母さんもストーカーしてたって言ってましたね。その司さん手作りのブサイクなぬいぐるみを使ってなごりが治ったんですか?」


「本人しだいだがな。それから……、ブサイクではない。きつねだ」


心外だと言わんばかりに、司は来夢を睨むが、


「わかりました……。お母さんもこれでうまく乗り越えたなら私も……」


陽葵は立ち上がると、手のひらサイズのぬいぐるみを握りしめ、


「私、がんばってきます! 司さん。いいえ、座敷わらしさん!」


そう言って店を後にした。



最後の言葉を聞いた来夢は司を仰ぎ見るが、彼は無言で店の奥へと消えていくのだった。