「探しましたよー!」
一階で気づいた通り、やはり正気ではなかった。完全に清姫のなごりにあてられている。
なぜなら……。
「どうかしましたか?」
「お前がな」
来夢は、さも当たり前のように司に抱きついていた。
その勢いに押し倒されるところではあったが、そこは男の意地なのか司は毅然と受け止めてみせた。
これがひ弱な蒼士だったら、
「うわあぁぁ」
とか間の抜けた声を上げばがら床に頭でもぶつけているところだろうが、司はそこまでヤワではない。
少なくとも司本人は常々そう思っている。
「蒼士さんがどうかしましたか? さっき見かけましたよ」
「いや──」
あいつはどうでもいい。そう言葉がでかかったが、自分で呼んでおいてそれは流石にヒドイかと思い直す。
蒼士のことだからきっと、いまごろは生徒たちが大事に至らないよう駆け回っているはず。長年の付き合いでそれがわかるからだ。
「それより来夢」
「はい」
「いいかげん離れる気にはならないか」
「どうしてですか」
「俺はこれから美波を正気に戻さなければいけないからだ」
「美波……」
そう復唱すると、来夢の顔がみるみる真っ赤に変色していく。
「弓長先生……美波さんが好きなんですか!?」
「いいや、彼女はなごり持ちで治してやる対象だ」
「ならどうして下の名前で呼ぶんですか!」
「気に入らないか」
「当たり前です! 司さんはあたしの彼氏ですよ!」
「いつ俺が──」