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「──美波!」
来夢を警戒しながら四階へたどり着いた時、高見沢の声が耳に届いた。
声の出所は遠く感じたが、おそらくは学校を埋め尽くす喧噪がそうさせている。
距離は近い。
司は警戒を解くと、辺りを見回し、廊下の端に高見沢を見つけた。
彼は言葉通り恋人である美波を発見したのか、なにかを追うように司とは反対側へと進んでいく。
嫉妬に狂った生徒たちをかきわけ、見失わないよう後に続くと、屋上へと出ていた。
「きつねの嫁入りか」
そこには天気雨の中、佇む美波。そして、それを後ろから見つめる高見沢の姿があった。
「さて……」
司は懐から幸運のぬいぐるみを取り出す。
が、その場から動かなかった。
人に伝染させるほどの強いなごりを発症している美波にいま渡したところで効果はないからだ。
座敷童のなごりを使い司が作る幸運を呼ぶぬいぐるみは、使用者本人が強く願わなければならない。
いまのようになごり持ちの美波が、なごり自体に取り込まれている状態では、渡したところでどこにでもあるぬいぐるみたちとなんの代わりもない。
その効果はまったくのゼロなのだ。
来夢に言わせれば、ただのブサかわいいだけのぬいぐるみだ。
「司さーん!」
ふと、来夢のことが頭を過ぎると、遠くでその声が聞こえた気がした。
「……まさかな」
「見つけましたー!」
まさかではなかった。
遠くなんてものではなく、いつのまにか目の前に当の本人がぬっと姿を現していた。