なんとか彼女に追いつくと、そこは屋上だった。

数日前、高見沢が落下しそうになった場所だ。

彼女は、屋上の中央までくると、おもむろに空を見上げる。

すると、


「あめ……」


晴れているにも関わらず、雨粒がしとしとと舞い降りてきた。
彼女が不思議な力で降らせたのか、それとも偶然なのか。

どちらにしろ、太陽の下で雨に濡れる彼女はどこか幻想的にすら見えた。
一瞬見惚れていたが、高見沢は頭を振ると、美波の背後へと歩を進めた。


「大丈夫?」


声をかけると、彼女はゆっくりと振り返る。


「信二……来てくれると思ってたわ」


いつものなごり発症時とは違い穏やかな口調で。
表情も穏和でやさしく微笑んでさえいる。
それでも高見沢には普通ではないことはすぐに察することが出来た。
目がどこか虚ろなのだ。こちらを見ているようでどこも見てはいない。
焦点が定まっていない不可思議な瞳だ。


「私ね、ずっと不思議だったの」


「なに、が?」


「人を好きになるって、切なくもなるけどとても素敵な感情でしょ。些細なことでも嬉しかったり楽しかったり、大学まではあなたと一緒にいられるだけでとても幸せに感じてた」


「……」


「それなのに、やっと信二と再会出来て、夢にまでみた恋人にだってなれたのに……私……全然幸せじゃないの」


「美波?」