「蒼士さん、司さんを見ませんでしたか」


「司? いやまだ会ってないけど、この状況っていったいなにがあったの?」


「大変なんです、司さんを見つけないと」


「司になにかあったの?」


「あってからじゃ遅いんです! モテるのは罪です!」


「来、夢ちゃん?」


「どこですか~、司さ~ん」


来夢は再び、勢いよく走り出してしまう。


「あ、待って!」


よくわからず付いて行くと、


「司さ~ん!」


「ここは……」


大きく開けた空間。体育館へとやってきていた。


ここも、通ってきた廊下や教室と同じで、生徒たちの痴話喧嘩が繰り広げられていた。

中でも、これまで以上に白熱したカップルが多く見受けられる。

興奮が頂点に達しているのか、男子に馬乗りになった女子生徒や、ビンタをお見舞いしている女子生徒の姿まで見受けられた。
一歩間違えれば、事故に繋がりかねない状況だった。

だが、その中をひとりの生徒がうまく立ち回っていた。


「あ、待って! それはやりすぎだよ」


その女子生徒は、カップルの間を走り回り、怪我をする寸でのところでみんなを止めていた。

完全に止まる生徒こそいないが、物をなげようとする人がいればそれを取り上げ、男子が逆上しそうになれば、それを窘めると言った感じで、みんなが怪我をしないよう守っているように見えた。

蒼士はひとまず、唯一まともそうに見えるその女子生徒に声をかけてみることにした。


「あの──」